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涼風の残響【鬼滅の刃】

第12章 紋様と花


漆と捌が飛ばされている。

「間どこいったんだよ。まァいいわ、陸はともかくとして玖ノ型を思い付いたの……どうせ煉獄の奥義見たからだろ?」

「さすが師範!私より私のこと詳しい気がします!そうなんです、杏寿郎さんの玖ノ型を実際に目の当たりにして、鬼を討つ際の決定打になる技を身に付けておきたいなって思いまして。技名、聞いてくれますか?!」

前のめりに迫り寄って来た風音に怯むことなく実弥は慣れた様子で頭に手を置き、落ち着かせるようにふわふわと撫でた。

「聞いてやるから興奮し過ぎんなァ。どんな技名だ?まさか『夙の呼吸 奥義』ってつけんじゃねェだろうなァ?」

興奮した様子からふにゃりと表情を緩めた風音はきちんと座り直し、ほんの少し瞳に悲しみを滲ませて言葉を紡ぐ。

「ううん、夙の呼吸 玖ノ型 星の入東風(いりこち)。昴(すばる)っていう星群が冬から春に向けて姿を隠す頃に吹く風を指す言葉なんです。その星群を、鬼という闇の中で輝く鬼殺隊隊士に見立てられたらなって思って」

特異な能力を持つが故に本来なら見ることのなかった多くの隊士たちの生き様を目の当たりにしてきた風音にとって、鬼殺隊隊士は紛うことなき夜闇に輝く星なのだろう。

体だけでなく心にも幾度となく傷を負いながらも笑みをたたえている風音の体を胸の中に誘い、後ろからキュッと抱き寄せて先を促した。

その心地良さに身を委ねた風音は自分の胸の前で交差された、今も尚人の命を多く救い続けている腕に頬を擦り寄せて先を続ける。

「今は殺伐とした寒い冬として……寒く辛い冬を耐え凌ぎ、鬼のいない暖かで柔らかな春を迎えるために日輪刀を振るって未来を切り開くって意味を込めて。だから風の呼吸の玖ノ型 韋駄天台風みたいに高く飛び上がって斬撃を放ちたいんです」

「そこまでよく考えたなァ。風音の想いが実現するように形にすんの付き合ってやるよ」

そう言って目の前にある金の柔らかな髪に顔を埋め今まで自分が失ったモノや風音の失ったモノに想いを巡らす。
頭に思い浮かぶ失ったモノはやはり失いたくなかったもので、失ったモノ自身も明るい未来を夢見たモノたちだ。

そのモノたちの想いや風音の想いを現実にするため、実弥は小さく息を零し風音の体をふわりと抱え上げた。
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