第12章 紋様と花
「ハハッ!鳥みてぇだな!不死川、ほどほどにしてやれよ?嬢ちゃんしょぼくれちまってんじゃねぇか!あんま落ち込ませてっとどこぞの男にかっさらわれちまうぞー」
天元の冷やかしに実弥は舌打ちをし、風音は唇を掴まれたままキリッとした表情で動かせる範囲で首を動かして左右にフルフルと振った。
何やら嫌な予感がしつつも何となくいつも通りの風音のお決まりな惚気が聞きたくなり、実弥は指を離して解放してやり風音を横目で見遣る。
「天元さん!私は実弥さんだけしか見えてません!大好き過ぎてどうしようかと思うくらいなので、余所見してる暇なんてないんです!どうしましょう?」
真剣な顔で堂々と惚気けるものだから天元は呆然。
その隣りで実弥は可笑しそうに笑い、未だに天元の手を握り締めている風音の手を自分の手に移動させてふわりと体を抱き寄せた。
それを風音は心地よさそうに受け入れ目元を緩やかに細めた。
「おぉ、おぉ。派手に見せ付けてくれんなぁ!じゃあ色男の俺様が嬢ちゃん抱き寄せたらどうなるか……」
「させるわけねェだろうが。用事済んだんなら帰れ、お前らが邪魔ばっかりしやがるからコイツが全然休めやしねェ。言っとくがコイツはまだ怪我人だぞ?任務の話は具体的な事が決まってから知らせろ」
風音の腕を掴もうと伸ばした天元の手を叩き落とし、怪我人をベッドへスポンと押し込めて天元へと鋭い視線で向き直る。
「冗談だって!ただ不死川がどんな反応するか見たかっただけだからな!まぁ、嬢ちゃんの反応を見たかったってのもあるけど……邪魔者は退散するとしますか。任務はすぐの話じゃねぇし、ゆっくり待っててくれ。嬢ちゃん、お大事にな!」
「ありがとうございます。任務のお話し、待っていますね。夕暮れも近いので帰りはくれぐれもお気を付けて」
天元はニカッと笑い頷きながら、心配げに眉を下げる風音の頭をポンと撫でると軽やかな足取りで部屋を出ていった。
「まだここ来て二日目だってのに客多いなァ……風音、疲れたら寝て構わねぇぞ」
布団に押し込めた風音の頬を撫でると気持ちよさげに頬を擦り寄せ小さく頷いた。
「うん、もう少しだけ実弥さんとお話したら休もうかな」
この日は天元を最後に来客は途絶え、残りの時間を二人は穏やかに過ごした。