第12章 紋様と花
元々天元から風音の姿は実弥の背に隠されていて見ることすら叶わない。
それなのに実弥は更に風音を守るように抱きすくめるものだから、天元が実弥の隣りに移動しても風音の片鱗しか見ることは叶わないところまできてしまった。
「実弥さん?」
「お前は黙ってろ。宇髄、答えろ」
肌を刺すような実弥の刺々しい雰囲気のわけを知ろうと天元を見ようと体を動かすが、実弥によって体をしっかり固定されているのでそれすら叶わない。
無理に動けば叱り付けられそうなので、とりあえず天元の返事を待つことにしたようで大人しく身を任せた。
「潜入させるつもりだ。俺の嫁たちを既に潜入させてるが一向に尻尾ださねぇからな。見た目的には嬢ちゃんは遊女で潜入してもらっても問題なさそうだが、不死川の秘蔵っ子を遊女には出来ねぇ。下働きとして……ならどうだ?」
遊女という聞きなれない言葉にこっそり首を傾げて実弥の様子を伺うと、幾分か怒りが和らいだ表情をしていた。
実弥の中で遊女は許せなくても下働きならまだ妥協点なのだろう。
「年頃の女を店に連れてどうやって遊女じゃなく下働きとして潜入させんだァ?ツテでもあんのかよ?」
自分を見上げている風音に視線を向けるとキョトンとしており、話の内容自体を飲み込めていないように見える。
腕っ節が強いだけの世間知らずを遊郭に潜入させるなど、無謀にも無謀で問題しか起きる気がしない。
「実弥さん、私頑張るよ?遊女はよく分からないけど、下働きなら何とかなりそうだから」
「花街がどんな場所かすら知らねェだろ。店で男と女が一緒に茶飲んで布団で寝るだけじゃねェんだぞ?」
「ちょっと待て不死川、お前……まさか嬢ちゃんと一緒に寝てて手ぇ出してねぇの?」
核心を突かずやんわりと風音を引き留めようとする実弥の横に、天元は一瞬で移動し顔を覗き込む。
そこにはキョトンと実弥を見つめ続ける風音を、頬を赤らめながら穏やかな表情で見つめる実弥がいた。
「何も知らねェ、手拭い巻いて風呂入るのも恥ずかしがる。そんな女相手に手ェ出せるかよ。だから誰にも触れさせたくねェんだ」
ふわりと長い金の髪を耳に掛けてやる実弥の姿は、長年柱として共に過ごしてきた中でも見たことがないほどに優しい表情と動作、雰囲気を醸し出している。