第12章 紋様と花
そして勢いよく戸が開き、不敵の笑みをたたえた天元が姿を現した。
「覗きが趣味なんて人聞き悪ぃなぁ!でも心配ない、何せ実弥ちゃんは字を読む専門だ!だから俺の派手に可愛い嫁たちに文は出せねぇんだわ!」
どうやら天元の実弥への認識は随分と前で止まっているらしい。
まぁ、天元のみならず実弥が字を書けるようになったことを知っている柱は今のところいないはずだ。
知っているのは実弥と共に任務に赴き、風音に手紙を出すところを見ていた剣士数人と……字の先生を務めた風音くらいである。
「実弥ちゃん……」
「つられて変な呼び方すんなァ……あぁ、宇髄、残念だったなァ。俺の近くに頭良い奴いんの忘れてんだろ?そいつは薬の調合を得意としてて帳面に所狭しと綺麗に字を書き連ねる奴なんだわ」
天元の時間が止まったかと思うとまるで絡繰人形のような動きで実弥の胸の中に隠されている風音の方へと視線を動かす。
「嬢ちゃん、もしかして実弥ちゃんに字教えたのか?」
「教えたなんて烏滸がましいですけど……一緒に書く練習しましたよ?もし良ければ私に書いてくれたお手紙を」
「見せんなよ、余計なもん見せんじゃねェ」
胸元から飛び出しいつも何故かパンパンに膨れ上がっている鞄に手を伸ばそうとした風音は、実弥の物凄い眼力で止められた。
「大人しくしとけ。ま、そういうこった。俺はいつでもテメェの女房たちに文送ってやれんぞ?しかも爽籟は飛ぶのが得意でなァ、テメェん家まで……」
「悪ぃ!俺が悪かった!今度おはぎ買ってきてやるからそれだけは勘弁してくれ!もちろん嬢ちゃんの分も買ってきてやる!」
何故こんなにも覗きが趣味だと手紙にしたためられるのを拒むのか?と考えたのも束の間。
もし誰かから実弥の趣味は覗きなのだと言う内容の手紙が届けば、風音は間違いなくしょんぼりしてしまう。
「分かりゃあいい。てか変な呼び方すんなァ、コイツが感化されてうつっちまったどう責任取るつもりだ」
「実弥ちゃん」
「おいコラ、もっぺん言ったらまた接吻して口塞ぐぞ」
二人の時ならば喜んで受ける口付けも天元の前だと恥ずかしくて心臓が持つ気がしない風音は、何度も首を上下に振りもう言いませんと口に手を当てて示した。