第12章 紋様と花
「俺はお前や胡蝶みたいに薬や病に関して詳しくねぇから上手く答えてやれない……だがどうかそうであってくれと心底願ってる。今は健康体に違ェねェけど、風音が延命の薬を完成させたとして……お前だけが死んじまう未来なんて俺も柱の奴らも望んじゃいねェ」
静かな部屋に響く実弥の声は僅かに震えており、瞳もそれに伴って悲しげにユラユラと揺れている。
自分の腕に出現した痣がもし本部が情報を有している痣だったとして、先ほどの仮説が違っていたら目の前の優しい青年は涙を流し悲しんでしまうのかと思うと風音の胸が軋むような痛みをもよおした。
だが自分の仮説はあながち間違っていないという確信があるのも事実で、実弥を悲しませずにすむのではないかと思うと軋みも和らぐように思える。
「うん。ありがとう、私も実弥さんや柱の皆さんや鬼殺隊の皆さんにはたくさん生きてたくさん笑って欲しい。その為にも怪我が良くなったら胡蝶さんと研究頑張ってみるね!もちろん私が長生きする前提で」
ニコリと微笑んだ風音を抱き寄せるまでもなく、風音が実弥の腕の中に飛び込み胸元に頬を当ててホッコリ。
今までの神妙な雰囲気はどこへやらと実弥は小さく溜め息を零したが、泣いてしまうより今のホッコリしている風音を見る方が実弥としても心が穏やかになれるというもの。
「おい、奇跡の女剣士。ちょっと顔上げろ」
「なんかそれすごく違和感が……どうしたの?」
少し眉をひそめて実弥を見上げた途端ふわりと灰色の髪が肌をくすぐり思わず表情が綻ぶ。
いつしてくれるのだろう……と心の中でひっそりと考えていた口付けを落としてくれているからだ。
(嫌がられたことねェけど……嫌がられた時の衝撃半端ねェだろうなァ)
と間違いなく杞憂に終わる考えを巡らせていたとしても、好いた少女と唇を重ね合わせていると実弥の中の何かが弾け飛びそうになるのは致し方ないこと。
フワフワとした雰囲気を辺りに撒き散らす風音を欲を吹き飛ばし柔らかく目を細めて見つめた後、誰にも見せてやらないと言うように胸の中におさめた。
そう……誰にも見せないため。
「宇髄、テメェはいつから覗きが趣味になったんだァ?今度テメェの女房たちに文送ってやるよ。亭主は覗きが趣味だってなァ!」