第2章 柱
「不死川さん、煉獄さんをお名前で呼んでも問題ないですか?あの……それで親交が深まるなら不死川さんのこともお名前で呼びたいなぁ……なんて」
杏寿郎の話題の転換で無事に悲しみから脱却した風音の問い掛けを足蹴に出来るわけもなく、また実弥にとって苗字で呼ばれようが名前で呼ばれようが頓着していないので頭から手を離してヒラヒラと振った。
「好きに呼べばいいだろ?別に煉獄がいいなら問題ねェし、俺も苗字で呼べって言わなかったはずだァ」
無事に許可をもらえた風音は嬉しそうに目を輝かせて頬を紅潮させた。
「ありがとうございます!では煉獄さんは杏寿郎さん、不死川さんは実弥さんって呼ばせてもらいます!嬉しい、同年代の人の名前を呼べるなんて奇跡です!むしろ名前で呼んでもらえる方が奇跡だけど」
一同キョトン。
その中で今の言葉の理由を知っている実弥だけが穏やかな笑みを浮かべたまま、手をポンと合わせて喜んでいる風音の頭をくしゃりと撫でる。
「そうかィ。そりゃあ良かったなァ。喜びついでにおはぎ食っとけ」
実弥の言葉に笑顔で頷きおはぎを口に運ぶ風音を見届けたあと、何気なく視線を柱たちへと向けてこめかみがピクリ……
「んだよ。何か言いてェことあんなら言ったらどうだァ?人の顔を妙な目で見やがって」
「いやぁ、お前ってそんな穏やかだっけか?『殺』って染め入れてる羽織に負けねぇくらい普段派手に眼光鋭いし」
「まぁ確かに任務に赴く時は鬼気迫る雰囲気ですが、不死川さんは優しいですよ?私の体調を伺ってくれますし、蝶屋敷の子たちにも懐かれてますからね」
目の前で繰り広げられる自分では知り得ない実弥の普段をおはぎを頬張りながら聞いていると、様々なその時の実弥の様子が風音の頭に浮かんだ。
(実弥さんって誰に対しても飾らないんだなぁ。今も怒ってるけど何だか楽しそう。私も……皆さんに力のことを打ち明けたら仲良くなれるかな?実弥さんの信じてる人たち……だから大丈夫?)
柱たちの他愛のない楽しげな遣り取りを耳に入れながらも頭に過ぎるのは、皆が気になっているであろう自身の力のこと。
(私の力、鬼殺隊で役に立てばいいのに。人のために戦える優しい人たちの役に立ちたいな)