第2章 柱
震えた声音に反応してそちらに視線を向けると、俯きキュッと強く手を握りしめている風音の姿が目に入った。
自分に対して無警戒ながらも先を見る力のことを話す時は意を決していた。
今は柱たちの賑やかさや人当たりの良さで楽しい時間を過ごしていたようだが、昨夜に様々な事が重なり孤独が自身にとって何よりの癒しになると判断した少女である。
今の不安げに小さく縮こまる姿を見れば、何を考えているのか実弥には手に取るように分かった。
信頼する仲間とは言え、ここで風音のことを軽々しく話すべきではないと判断し、隣りに座る少女の頭の上にふわりと手を置いた。
「それについてはコイツが落ち着くまで待ってやってくれねェか?昨日の夜に色々あったんで気持ちの整理がついてなくてな。今は望むことだけをさせてやりてぇんだ。別にお前らを信用してないわけじゃないって事だけ分かってやってくれ」
穏やかで優しい声音に今度は風音が反応して実弥を見上げ、声音と同じ優しい笑顔が瞳に映り涙腺を刺激されつつドキリとしたのも束の間……柱たちの視線を感じてそちらを見渡し、風音の罪悪感が刺激された。
全員が怒りを顕にすることなく、気遣わしげに自分を見ていたからだ。
「あ……すみません!私は……」
目の前にいるのはあの村の住人たちではなく、実弥と共に肩を並べて人々を鬼から救うために戦うような強く心優しい人たちであると理解している。
それなのに声がまるで喉に詰まってしまったかのように上手く出てこない。
「無理に話す必要はない!気になることは気になるが、君の気持ちを無視してまで聞き出そうなどと思っていないからな!まずは俺たちと親交を深めよう!確か柊木少女の名前は風音と言ったな?」
ハキハキとしながらもこちらの気持ちを慮ってくれる杏寿郎の言葉に救われながら頷き返した。
「ありがとうございます。はい、私は風音と言いますが……」
「では今から俺は風音と呼ばせてもらう!風音も俺の事を名前で呼ぶといい!」
冗談を言っているようには見えない笑顔だ。
蜜璃のことは名前で呼ばせてもらっているものの、実弥に対しては苗字で呼んでいる。
杏寿郎の提案を受け入れていいか分からない風音は、本当に名前で呼んでいいのかと伺うために視線を実弥に戻した。