第12章 紋様と花
そして部屋に残された二人の間に微妙な空気が流れる。
「……おい、何か喋れよ。いつも口開けば永遠と話し続けんじゃねェか。何で今は黙ってんだ」
「えっと……口付けしてくれるなら黙ってた方がいいかなって思って。あのね実弥さん。さっきの痣の話の続きなんだけど」
口付けして欲しいのか話を聞いて欲しいのか迷うところだが、今は話を聞いてほしいようで実弥を真剣な眼差しで見つめていた。
実弥としても無下になどしたくない内容なので、今度は実弥が風音の頬に手を当て先を促す。
「何だァ?」
「うん、たぶん私の寿命縮まってないと思うの。お薬作り続けてきて、胡蝶さんほどではないかもしれないけど色んな病にかかった人を目にしてきた。病で命を落とす人の多くは体が病魔に蝕まれていって、それに体が耐えきれなくなって亡くなるの」
実弥には風音が屋敷に来るまでどれほどの人の死を目の当たりにしてきたのか知らない。
薬を売り歩き更には汽車の中で結核の少年に完治する薬を渡したと聞いていたので、薬を調合し完成させるまでの過程で何となく看取ることもあったのだろうと感じてはいた。
しかしそれをわざわざ掘り返して傷を抉ることをしようなどと思うはずもなく、話したいと思った時に聞いてやれればいいと思っていたのだ。
今の風音の表情は過去の出来事を思い返しているのか、実弥の胸にチクリと痛みをもたらすほどに悲しく沈んでいる。
「つまり……体が耐えきれない負担がかかり続ける事で亡くなってしまうのだけど、痣が出た時も今も私には何の負担もない。死んでしまうのならば、もっと体に負荷がかかるはずなの。胡蝶さんからも健康体だってお墨付きもらってたよね?」
それこそが本部や柱たちを悩ませている事柄だ。
風音の言った通り二十五でなくなるのであれば、体に様々な異変が起きていてもおかしくはない。
それなのに風音の診断結果は紛うことなき健康そのもの。
変わったと言えば先を見続けたことにより鬼に対する毒の成分が鰻登りに上がったことだけだったのだ。
だから風音の痣は本部が情報を有していた痣なのかの判断がつかない状態のままこの日を迎えた。