第12章 紋様と花
「むぐ……んーん……むぐむぐ」
それでも何かを話そうとする風音の頬を一度強く掴んでから解放する。
「油断も隙もありゃしねェ。何だよ、今度は何言ってやがった」
「実弥さん、私も大好きで大切です!って言ってました」
もう無理だ。
今の風音を止めることは誰にも出来ないと察し、実弥は溜め息をついて椅子に力なく腰を下ろした。
「そうかィ……好きに言ってろ。で、煉獄。ここに来たのは何か用事あったんじゃねェのかァ?コイツに付き合ってたら日が暮れんぞ、要件あるなら言ってけよ」
軽くあしらわれたものの風音に不満な様子はなく、嬉しそうに実弥と杏寿郎の遣り取りを見守っている。
確かに風音の惚気に付き合っていては日が暮れそうだ。
それはそれで杏寿郎からすれば特に問題なく、何なら実弥の普段見られない姿を見られるのでいいのだが、要件は伝えなくてはと溌剌とした笑顔のまま炭治郎の肩に手を置き実弥へと向き直った。
「日が暮れるのは一向に構わないが要件を先に伝えよう!不死川、君が風音を継子にとったように、俺も竈門兄妹と猪頭少年、黄色い少年を継子に迎えようと思う!この子たちには既に了承を得ている!これから同じ継子を持つ柱同士よろしく頼む!」
寝耳に水。
実弥のみならず風音までも杏寿郎の言葉にポカンとした。
しかし風音は杏寿郎の決断が嬉しかったのか、胸の前で手を合わせて目をキラキラと輝かせている。
実弥は……炭治郎や禰豆子に対しての感情が和らいだものの完全に認めたわけではない。
だが柱からも隊士からも信頼の厚い杏寿郎の決めたことに意義を申し立てる気になれず、フイと杏寿郎から視線を逸らし呟いた。
「お前がそうしてぇなら好きにすりゃいいだろ。生憎俺はコイツの世話で手一杯だ、コイツみてぇに手のかかる弟子じゃないことだけ祈っててやるよ」
「ありがとう!だが風音も立派な剣士に育っているではないか!不死川の教えがいいのだろう。……確かに手はかかりそうだがな!」
手を掛けさせている自覚しかない風音は二人に何も言い返せない。
向こうを向いてしまっている実弥の様子を伺おうとおずおずと視線を動かすと、思いの外優しく目元を緩めた実弥と目が合い思わず表情が綻んだ。