第12章 紋様と花
そんな実弥にニコリと微笑んでから炭治郎へと向き直る。
「こんな格好でごめんなさい。竈門さん、傷は大丈夫ですか?お腹を刺されてしまったと聞いてたのだけど……」
「うん、俺の傷はもう良くなってるからもうすぐで退院になると思う。あのさ、俺……まだ風音に謝れてなくて」
何か謝られることがあっただろうかと首を傾げる風音の前には、何やら心当たりがあるような気まずい表情をした実弥。
それがますます風音の頭の中に疑問符を増産させて難しい顔をして考えるも、やはり何も思い当たらない。
「謝る……ことなんてありましたっけ?竈門さんには助けてもらった記憶しかないんだけども」
「いやいや!助けてもらったのは俺の方だよ!それも感謝してるんだけど、裁判の時に頭突きしてしまっただろ?女の子に頭突きして怪我させるなんて……ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げられほんの少し記憶を遡って当時の様子を思い出した。
自分が何の前触れもなく実弥と炭治郎の間に割り込み……頭に瘤を作った出来事を……
「あぁ……あれは不慮の事故と言いますか、私がいきなり割って入ったから衝突しただけですよ?それに私の頭が石頭だったのか、大した怪我もなくすぐに目を覚ましたので。むしろ気に病ませてしまってすみません……」
当事者である実弥の目の前で二人に謝罪合戦を繰り広げられ、何ともいたたまれない気持ちになり実弥はフイと顔を壁際に背ける。
(俺がいる前ですることかァ?!……クソ、いつまでも謝罪と礼を繰り返しやがって。誰が止めんだよ!)
「風音、不死川!息災か?!なかなか見舞いに来れなくてすまない!どうやら俺もなかなかの重傷だった……ん?竈門少年も来ていたのか!」
どうやら神は実弥を見捨ててはいなかったようだ。
勢いよく開かれた戸の前にはいつも通り溌剌とした杏寿郎の姿。
その杏寿郎に助けを求めるように実弥が視線を送ると、目の前で頭を下げあっていたであろう二人の様子を見て何となく事情を察し、穏やかな笑顔でゆっくりと歩み寄ってきた。
「何について頭を下げているのか分からないが、もうそろそろいいのではないか?互いに伝えたいことは伝えられたのだろう?感謝と謝罪を無事に伝えられたのならば後は、これからもよろしく!でいいと思うぞ!」