第12章 紋様と花
「噂だァ?俺の噂なんてろくなもんじゃねェだろ」
特に威圧しているつもりはないのだが、目付きや傷、言葉尻が剣士たちにとってキツく映り恐れられているという自覚がある。
噂など怖いや厳しい……といったものに違いないと思っていたが……
「ううん、任務後に傷薬くれたり労ってくれるんだよって。前よりも話し掛けやすくなったって噂。大好きな人のいい噂を聞けるのって嬉しい」
「……そうかィ」
特に何かを意識して剣士たちに接していたわけではない。
それでも剣士たちにそのように自分が映っているのならば、現在自分の胸の中でポカポカと体温を上げている少女の影響か大きいのだろう。
緩々と面倒くさくない程度に甘えてくる風音が近くにいると、その風音と近い歳の頃の剣士たちには自然と同じように接していたのかもしれない。
いい噂も悪い噂も気にならないが、風音が嬉しそうにそのことを話すので人から受けているいい噂も悪いものじゃないと思えた。
顔を上げさせて口付けをと思ったところで部屋の戸が外から叩かれる音が実弥と風音の鼓膜を震わせる。
『風音、入ってもいいか?』
そして部屋に向けられた声は実弥が頑なに認めないと言っている炭治郎のものだった。
今もそれは継続中のようだが、風音から先日の任務の時の様子を事細かに一から百まで報告を受けた実弥の中で、炭治郎や禰豆子に関しての感情がほんの少し和らいだ。
伺うように見上げ招き入れたいと思っている風音に頷き返して中に入れてもいいと示すと、ありがとうと伝えるようにキュッと抱き着いてきた。
そして胸元から少し離れニコニコと手を握りしめて戸へと意識を向ける。
「はい!どうぞ」
「お邪魔します!」
律儀にも戸を開けた後にお辞儀する炭治郎に笑みを向け、顔を上げた炭治郎に実弥の隣りの椅子へと手を差し出して案内した。
すると炭治郎は何の躊躇いもなくその椅子の前まで進み腰掛ける。
……実弥の炭治郎たちへの感情が和らいだと言えど、顔を合わせて話すところまではいっていないらしい……視線は風音が握ってくれている手に落としたままだ。