第12章 紋様と花
「うん。あの……今は消えてる不思議な紋様、あれ何だったんだろ?体が軽くなって技の威力も桁違いに上がったんだけど……そんな事って有り得るのかな?」
実弥の動きが一瞬ピタリと止まった。
それを見逃すほど風音は弱っていないし、何より今一番長い時間を共にしている人の僅かな変化は感じ取れるものだ。
「何か知ってるの?あんまり……いい内容じゃなさそうかなって思うのだけれど」
知っているも何も実弥はここ数日の間に緊急招集をかけられ、風音の言う紋様についてお館様から聞かされている。
その内容は風音の言う通り、人によっては良いものであるが普通の人からすれば受け入れ難いものだったのだ。
「答える前に一つ聞くことがある。風音、紋様が出た時に何か体に異常なかったかァ?痛ェとか怠ィとか……不快な感覚」
「んー……特に何も感じなかったよ?痛いも怠いもなくて、ただ体が軽くなって動きやすくなっただけ。あとは鬼に……猗窩座に負わされた傷の治りが他の傷より早かったくらいかと。背中の傷とか一日で治っちゃったし」
実弥の心の内は重くなっているのに本人は変わらずのほほんとしていて緊張の欠片もない。
いい内容じゃないと察しているはずなのに悲観した様子は感じられずいつも通りのように映る。
「お前は自分のこととなると本っ当に関心薄いなァ……ほら、ちょっとこっち来い」
ベッドの上で上体を起こし緊張感の感じ取れない顔で当時のことを思い出そうと首を捻っている風音を、実弥は腕を広げてこちらへと促した。
すると実弥の想像通り風音はパッと顔色を明るくして怪我人とは思えない勢いで飛びついてきた。
「怪我してんの忘れんなよ……はァ。風音、お前が言ってる紋様は正確には痣らしい。お前に出たのが痣なのかまだはっきりとは分かってねェけど、俺が聞いた痣なら…… 風音は二十五歳までに……」
言い淀む実弥に風音は抱きすくめられたままクスリと小さく笑い、実弥の顔が見えるようにと胸元から顔を上げて頬に手を当てる。
「死んじゃう?」
どうしてこうも事も無げに言ってのけるのか。
普通ならば常に死と隣り合わせの鬼殺隊の剣士だったとしても多少なりとも動揺するというのに。