第11章 薄暮と黎明
「え、でも……私は本当に大丈夫だから杏寿郎さんたちを。私がもっとちゃんと先を見ていれば、誰も怪我をしなったの」
ペタンと地面に尻をつき俯いた風音の表情は立っている実弥からは見えないが、乾いた地面へとぽたぽた水滴が落ちてはシミを作っているので泣いているのは嫌でも分かった。
そんな風音に小さく溜め息を零し、しゃがみこんで頭をポンと撫でてやる。
「あのなァ、代償のねェ能力じゃないだろ。上弦相手にポンポン使ってたら命幾つあっても足りやしねェ」
「そうだぞ!それに俺たちの怪我がこれだけで済んだのは君の力が大きい!俺こそ守ってやれなくてすまなかった」
いつの間にか実弥の横に同じようにしてしゃがみこんでいた杏寿郎の声に顔を上げると、今の風音にとって胸を締め付ける優しい笑顔の二人と、少し離れた場所から穏やかな雰囲気をこちらに向けてくれている炭治郎と伊之助の姿があった。
「これは……全て私が望んでした事なので……謝罪なんて。私が……」
未だに涙をぽろぽろと流す風音に二人は苦笑いを零し、実弥はそれを落ち着かせるようにふわりと傷だらけの体を抱き寄せた。
「もう泣くなァ。お前が見た今の光景でお前は泣いてたのかよ?笑ってたなら笑っとけ、全員生きてんだからなァ」
心地よい温かさと昨日ぶりなのに随分と懐かしく感じる匂いが風音の体に入っていた力を抜かせ、涙が止まるどころか更に溢れ出してしまう。
それでも抱き寄せ続けてくれている実弥の温かさを求めるように腕を背に回し……杏寿郎の驚きの声が上がった。
「風音、君は刺青などしていなかったと思うのだが?!不死川、ここ数週間の間で風音は刺青を入れたのか?!」
「あ?入れさせる訳ねェだろ。何言ってんだァ?どこに……何だァ?!」
杏寿郎のよく分からない言葉に実弥が風音を少し離し肌が出ている部分を見遣り目を剥いた。
見覚えのない若葉色の風と葉を模したような紋様が右腕に浮かび上がっていたからだ。
「おい、昨日まではなかったろ?これ何だァ?お前が好き好んで描く……なんてねェと思ってんだが」
「ん……よく分からない。いつの間にか浮かび上がってたの。痛くもない……あ、そう言えばこれが出てから攻撃力が上がったような……」