第11章 薄暮と黎明
「ぐっ……!ふざけるなぁあ!」
もう朝日が猗窩座の足元数尺の位置まで届いてきた。
杏寿郎の刃も半分までめり込みあと少しで消滅させられると全員が思ったのに、それは叶わずだった。
「破壊殺・脚式 飛遊星千輪」
多方向へと甚大な影響を及ぼす足技が展開されたからだ。
それはたった一人を除いた全員に降りかかり、杏寿郎はもちろん左右から猗窩座に飛びかかろうとしていた炭治郎と伊之助にも被害が及んだ。
風音はただ吹き飛ばされ地面を転がっただけで、傷一つつけられてはいない。
「どうして……私だけ……逃げるなぁ!私はまだ立ち上がれる!私だけ……まだ戦える!」
痛む体を起き上がらせ腕を伸ばすも吹き飛ばされたことにより猗窩座とは距離が出来てしまって空を切るだけである。
目の前には血を流し倒れる三人の姿。
それら全てに背を向け林の中へと足を踏み入れた猗窩座を追わなくてはと立ち上がって足を動かすと、後ろからふわりと頭を撫でられた。
「よく持ち堪えたなァ、待ってろ。俺が一発お見舞してきてやらァ!」
待ち望んでいた人の声に風音の体から一気に力が抜けた。
それを見届けた頭を撫でてくれた人……実弥は林の前まで走ると足を踏ん張り技の構えを取った。
「無傷で逃げれると思うなァ!せめて俺の土産持って帰れェ!風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風!」
木々が技によってなぎ倒される音が辺りに響き渡ったが、風音の位置からだと猗窩座がどうなったのか分からない。
しかし実弥が舌打ちをしたので頸を落とすには至らなかったのだろう。
「クソが…… 風音、怪我してるとこ全部見せろ。応急処置くれぇならしてやれっからな」
「私は大丈夫……あの、杏寿郎さんたちの手当てを先にお願いします!出血が酷いの!早くしないと……私も手伝うから!」
「周りの状況すら見れてねぇから見せろっつってんだ。お前以外全員自分の傷は自分で出血止めてんだよ。首から血ぃ垂れ流してるお前が絵面的に一番酷いだろうが」
そう言われ三人へと視線を移し様子を伺うと、三人ともが苦しげに表情を歪めているものの実弥の言う通り出血は止まっているように見えた。