第11章 薄暮と黎明
涙を拭ってからその手で腕の文様を擦ってみるも取れるどころか滲みすらしない。
どうしたものかと実弥を困った顔で見上げると、実弥は小さく溜め息をついて再び風音の体を胸元へと寄せた。
「体に異常ねェなら後で考えりゃいい。それよりお前もう寝とけ。起きてっと永遠としゃべり続けるからなァ」
どうにか怪我のない頭をポンポンと撫でてやる。
するとやはり力を酷使した上に一晩中戦い続け、更には体中所狭しと傷を負った風音はウトウトと船を漕ぎだした。
「実弥さん……お約束、守れたよ。杏寿郎さんも竈門さんたちも……汽車に乗ってた人たちもね、全員無事だよ。あと……禰豆子さん、いっぱい助けてくれたの。どうしてかな……私の匂い……嫌がらなかった。それでね」
「帰ったらいくらでも聞いてやる。もう寝てろ……傷に響いちまうだろうが」
眠りそうになりながらも実弥へと任務の様子を報告する風音の額に口付けを落とし、脚の上へと体を移動させて体に持たれ掛けさせてやると……ようやく風音は静かな寝息をたてて夢の世界へと旅立っていった。
「不死川と話したくて仕方ないのだろうな。戦闘に関しては肝を冷やされるが、何とも可愛らしい女子ではないか」
「……自分で首切ったって楓から聞かされた時は説教してやろうって思ってたんだがなァ。こうして生きて寝てる姿見てっと……まァ、あれだ。可愛いって思っちまってどうでもよくなった」
こんなにも穏やかな表情をするのかと思えるほどに、風音の頬をフニフニと摘んで遊ぶ実弥の笑顔は優しく、心から風音の無事を喜んでいるのだと杏寿郎に伝わった。
「ふむ、不死川!接吻をしたいならばしてくれて構わないぞ!任せろ、竈門少年たちの目は俺が塞いでてやるからな!」
「しねェよ。煉獄、元気余ってんならアイツらの様子見てやれよ。俺が行くよりお前のが……アイツらもいいだろ」
「そうだな!ではここで待っていてくれ!すぐに確認してくる」
杏寿郎に頷き返し気配が遠ざかるのを確認すると、実弥は人知れず風音の唇に自分の唇にを重ね合わせた。
「お前が愛しい……どうしようもねェくらいに」
風音が起きていたならば飛び上がって喜んでいた言葉は風音の夢の世界にしっかり届き、夢の世界の中で無邪気に喜んでいた。