第11章 薄暮と黎明
体のあちこちが痛いのに気を失えない辛さを味わいながら、どうにかこうにか腕に力を入れて上体を起こす。
もう日が昇るようで山間が明るくなりつつあった。
そんな中でも杏寿郎と猗窩座の激しい戦闘は続いており…… 風音の瞳に映ったのは短時間で鬼のように傷が癒えない杏寿郎の傷が増えている姿だった。
それに加え杏寿郎の先を見て愕然とする。
「嘘……私、連れ去られる?それは困る……」
脚や腹に傷を負っている杏寿郎を振り切り、やはり猗窩座は朝日から逃げるように風音の方へと走りよってくる。
「風音!逃げろ!」
杏寿郎の声はしっかり届いているが、猗窩座の走る速度から風音が逃れるすべはない。
しかも日輪刀は先ほど投げてしまったので抗うすべもない状況だ。
「あぁ……やっぱり貴方は優しい人だった。竈門さん、嘴平さん、ありがとう」
やっとの思いで立ち上がった風音の前に猗窩座から守るように立ちはだかってくれたのは、杏寿郎から待機命令を下されていたであろう手負いの炭治郎と猪の頭を被った伊之助だった。
「戦闘中力になれなかったから……これくらいはさせてくれ!」
「退けぇえ!」
猗窩座の怒号がこの場の全員の鼓膜を痛いほどに刺激したと同時にぶつかり合う音が響いた。
初撃をどうにか防いでくれた炭治郎と伊之助へ……せめてもと後ろから援護する。
「お二人共、私の合図でそれぞれ反対方向に避けて下さい!私はもう大丈夫です!いきますよ……今です!」
何がなにやら分からない突然の合図にも二人は即座に反応して左右へと飛び退くと、猗窩座が腕を伸ばし風音の腰を抱え込んだ。
「「風音!」」
二人の声に笑みを零し、風音は脚が地面にめり込むほどに踏み締めて猗窩座の腰へと自ら腕を回して動きを制限した。
「私は君に連れていかれるわけにはいかない。ここで杏寿郎さんに頸を斬られてよ」
風音に腕を回されたのに猗窩座は抵抗を見せず、風音の腰に回していた腕の力も不思議と弱まった。
理由は分からないが自分がこうすることで猗窩座を足止めして杏寿郎に背後から頸を狙ってもらえる隙を作ることの出来る先を見たのだ。
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火!」
そして予知通り風音の頭上を赫い刃がよぎった。