第11章 薄暮と黎明
いつもの戦闘状態より遥かに軽く感じる体に心の中で首を傾げながら跳躍し、背後で奥義なるものを放つ準備に取り掛かった杏寿郎へ繋げるために、猗窩座の背後へと降り立って日輪刀を振り上げた。
それなのに猗窩座は杏寿郎の方を向いたまま風音の方へと向き直らず、拳についたままの血を見ていた。
「私の血……?夙の呼吸」
一瞬。
技が届く寸前に背中越しに振り返った猗窩座の瞳が風音を映した。
その瞳は鬼でありながらも、やはりいたわるような後悔しているような……不思議な色をたたえていた。
「伍ノ型 天つ風」
日輪刀を振り切った時には既にそこに猗窩座の姿はなく、奥義を放ち迫り寄ってきている杏寿郎を迎え撃つべく少し前に体を動かしていた。
「……考えるのはあと。援護しなくちゃ……え?!何?!」
後ろで結んでいるはずの髪が解けてしまうのではないかと思うほどの風と、目もくらむような赤い炎が空へと巻き上がり夜明け近い薄暗い空を明るく照らし出したのだ。
「こんなの……どうやって間に入ればいいのか……どの先を見ても足手まといになる未来しか見えない。実弥さん、実弥さんならどうする?」
実弥ならば激しく打ち合う二人の合間を縫って援護出来るのだろう。
しかし風音には実弥のように高く飛べないし、そもそもそこまで繊細な後援は通常時でも……
「あ……一つだけある」
それをするに当たり一人の怒り狂う姿が頭に浮かんだが、実弥との約束を守り杏寿郎を前に見た予知通りの姿にすることを避けるには迷ってる暇などなかった。
「鋼鐵塚さん……どうか許して!」
今まで一度たりともした事のない構え……と言うより、鬼狩りの場では絶対にしてはいけない構えを取って日輪刀を投擲した。
それは無事にと言うべきか猗窩座の肩を貫通して突き刺さり、杏寿郎の腹を目掛けて突き出そうとしていた右腕の動きを止めてくれた。
「……痛……もう、限界かも。実弥さん、お約束はしっかり守れそうです。もう……杏寿郎さんは大丈夫ですよ」
風音の脚にふんばり体を支える力は残っておらず、投擲した勢いのまま地面へと倒れ込んだ。