第11章 薄暮と黎明
「やはりお前も鬼になれ!確か風音と言ったな?お前は鬼になるか喰われるかのどちらかだ!それならば杏寿郎と共に鬼となり、俺と永遠に戦い続けよう!」
風音は手を止めることなく日輪刀を振り続けているのに、猗窩座はそれら全てを難無く防ぎ言葉を発している。
足元にも及ばないと実弥にも言われている相手だが、こうも実力差が顕著だと風音の中に不快感が生まれた。
「鬼になんてならない!鬼になるのも……喰べられるのもどっちも嫌!夙の呼吸 参ノ型 凄風・白南風!」
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火!」
完全に距離を詰められていた風音を救ったのは力強くも見蕩れるほどに綺麗な炎だった。
猗窩座の両腕を斬り落とした杏寿郎は風音と入れ替わるように前へと体を移動させ、風音の目では追うのがやっとなほどの攻防を繰り広げだした。
「私は猗窩座に手加減されてる?……え、ちょっと待って……未来が変わった?!杏寿郎さん!」
呼び名を変えることすら忘れ風音は目に涙を浮かべながら全力で足を動かし……いけないと分かりつつ懇親の力で杏寿郎の体を押し倒した。
その上を猗窩座の腕が通り過ぎて風音の背中を引き裂き、鮮血が杏寿郎の視界を染める。
「間に合った……杏寿郎さんがいないと駄目なの。かすり傷ですので、私が猗窩座を引き付けます。次で」
「何を言っている?!」
胸元に倒れ込んでいた体が起き上がる前に抱き寄せ、自分の拳に付着した風音の血を目を見開き見ている猗窩座から再度距離をとるように跳躍して、その場で杏寿郎は風音の体を自分の胸元に寄りかからせてやった。
「あとは俺の仕事だ。ここまでよく戦ってくれた、俺に任せて風音はここで休んでいるんだ。……これは指示ではなく命令……」
「困ります。まだ動けるので私に引き付け役を任せてください。大丈夫……もうすぐ来てくれる。もうすぐ夜が明けますから」
命令を下せば止まると実弥は言っていたはずだ。
しかし風音は実弥の継子だと嫌でも理解できる素早さで立ち上がり、未だに立ち尽くしている猗窩座へと挑んでいってしまった。
「聞いた通り跳ねっ返りな性格をしているな!くっ、人の気も知らずに…… 風音、共に帰るぞ!炎の呼吸 奥義 玖ノ型 煉獄!」