第11章 薄暮と黎明
その頃、実弥は歪んでしまっている線路の上を走っていた。
「どんな力加われば線路曲がんだよ!クソ、こんだけ離れてりゃあ他の奴らの動向も分かんねェ。爽籟、あとどんくらい……ぁん?!アイツどこ行きやがったァ?!」
つい先ほどまで実弥のすぐ側を飛んでいたはずの爽籟の姿が視界に映る範囲にはおらず、明かりの一切ない夜闇の中実弥は一人疾走している状態だ。
「風音と煉獄の場所が近ェからか……?約束守れてんだろうなァ?」
鎹鴉である爽籟のみが実弥と風音たちを繋ぐ存在。
それを十分に理解している爽籟が気まぐれで実弥の側を離れるはずがない。
こと風音に関して、爽籟は何を置いても構うほどにお気に入りである。
汽車内では実弥と共に落ち着きをなくしソワソワしていたくらいなので、風音の任務地が近付いてきたことにより楓を探しに赴いたのかもしれない。
「まず間違いなく怪我は免れてねェだろうな……また誰かを庇って体ズタボロになって寝たきり……かよ。胡蝶が近くに来てればいいが……」
「実弥!」
風音を案じていると何より待ち望んでいた声が聞こえた。
その声の主は夜闇からふわりと舞い降りて、実弥の隣りで黒い羽を羽ばたかせている。もう一羽と共に。
「爽籟、楓。ご苦労だったなァ、で。風音や煉獄は無事なんだろうなァ?」
「無事デス!ソノ…… 風音サンハ首ニ切リ傷ヲ負ッテイマスガ今ノトコロ命ニ別状ハナイカト。現在、煉獄様ト共闘シテオリマス。先導スルノデツイテキテ下サイ!」
「首だとォ?!まさか自分でつけたんじゃねェだろうなァ?」
「…………」
楓からの返事はない。
つまり実弥の言葉を覆す答えをもっていないことを示している。
「何やってやがんだ!首とか一番守らなきゃならねェ場所だろうが……はァ、帰ったら説教だ」
首の傷はともかくまだ風音は実弥との約束を守り続けている。
あと少し……あと少しで夜が明けて風音たちがいる場所へと辿り着ける。
「おい、速度上げんぞ」
さらに上がった実弥の速度に遅れぬよう、楓と爽籟は懸命に羽を動かし風柱の先導に全力を尽くした。