第11章 薄暮と黎明
風音の予知通り猗窩座は高く跳躍してその場で滞空しながら技を放ってきたので、呼吸の技を放ち杏寿郎自身と風音を防御した。
するとその合間を縫って風音が前へと躍り出し、さすがは元風の呼吸の遣い手と言わざるを得ない軽い身のこなしで猗窩座の背後へと回った。
「風の呼吸 捌ノ型 初烈風斬り」
実弥ほどの威力はない。
派生の呼吸を使う風音では高さも猗窩座に届くギリギリのところまでしか飛べなかったが、腕を切り付け技を中断させるには十分だった。
しかもこっそり体に手を触れさせたのだから大したものである。
「風音!一度戻れ!」
「はい!すぐに……え?」
地面へと着地してすぐさま杏寿郎の元へ戻ろうと踏み出した瞬間、手を強く引かれ額が触れるのではと思うほど近くに寄せられた。
「お前、俺の先が見えるのではないか?」
探るような猗窩座の視線や言葉に心臓が胸を激しく打とうとしたが、どうにか平静を保ってねめつける。
「知ってるでしょ?私は人の先を見て間接的に君たちの動きを予測してるに過ぎないって」
気配で杏寿郎が間近まで来てくれていることを感じ取った。
しかしこのままでは杏寿郎の攻撃の妨げにしかならないと察する。
自分の手首を掴む腕を吹き飛ばそうにも、今の力量ではそれは叶わない。
「こんな使い方も出来るんだよ?」
猗窩座から解放され、尚且つ怯ませる方法。
風音は躊躇うことなく自分の首に日輪刀の刃をあてがい勢いよく横へと滑らせた。
当然そこからは血が噴き出し間近にあった猗窩座の顔を真っ赤に染めた。
「風音!ぐ、炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天ーー炎の呼吸 参ノ型 気炎万象!」
気を失いそうな痛みも杏寿郎が掴んでくれた好機を逃す訳にはいかないと思うと不思議と遠ざかっていく。
それにまだ……数週間前に見た凄惨な未来は訪れていないので風音は気を失ってなどいられないのだ。
目の前では猛毒を浴びせられ吐血しながらも、杏寿郎の凄まじい速さと威力の剣技や技を、上弦の鬼たらしめる生命力と力で迎え撃っている猗窩座の姿。
「早く止血しろ!それが出来なければ動くな!」
先を見て援護にと考えていた風音に杏寿郎から当たり前の指示が出されたので、慌てて止血を行い自分の傷の状態を確認する。