第11章 薄暮と黎明
一体の生き物が出したとは思えない轟音と地響きが辺りに響き渡り、二人の前にはその生き物が現れた影響により発生した砂埃が不気味に揺らめいた。
風音が先を見た通り上弦の鬼……上弦の参がどこからともなく現れ、地面に片膝をついてこちらを見据えている。
そこから視線を外さないまま風音は見えたものを杏寿郎に伝えた。
「炎柱様、なぜか鬼は私を直接攻撃してきません。基本的に狙われるのは炎柱様と心得下さい」
「あぁ、心得た。一つ、これだけは必ず守ってくれ。戦闘中に先を見て負傷するようなことはするな、負傷した時点で待機命令を下す」
「かしこまりました」
静かな二人の遣り取りを眺めた後、上弦の参が勝ちを確信しているような笑みを浮かべて立ち上がった。
「なんだ、俺が来ることはやはり知られていたのか。女、あの方がお前の力を欲している。鬼になるかあの方に喰われるか選べ」
どちらもごめん蒙りたい選択肢だ。
そもそも鬼の先は見れないことになっているし、喰うと言っても鬼にとって猛毒な血肉を持つ自分を取り込むことなど出来ないはず……なのだが。
「どちらとも遠慮しておきます。私は人間として生きて帰って杏寿郎さんとたくさんお話ししたいので。出来るならば私に頸を斬られてくれると嬉しいんだけど」
ニコリと微笑みながら挑発するような言葉を吐く風音に、特に上弦の参は苛立ちを露わにはしていない。
自分より遥かに矮小な存在に何を言われようと気にも留めていないのだろう。
しかし杏寿郎は違う。
初めて風音と任務を行うので鬼に対して好戦的だと実弥から聞いてはいたものの、格上相手に危うい言葉を吐く風音に危機感を抱き自分の背後に隠した。
「君の相手は俺だ。この子は鬼にさせないし喰わせもしない」
「あぁ……お前、柱だな?まさか柱までいるとは思いもしなかった!そんな弱い女より俺はお前に鬼になってもらいたい!」
柱三人分の強さを誇ると言われている鬼と言えど、柱という鬼殺隊剣士を束ねるほどの強さを持つ者を前に喜び興奮する様子は風音にとって常軌を逸しているように思えた。