第11章 薄暮と黎明
「竈門少年は待機させている。風音、指は大丈夫なのか?爪が剥がれていたように見えたのだが」
さすがは杏寿郎。実弥と爽籟が頷き合うだけの事はある。
しっかり風音の怪我の具合を確認していた。
「私は大丈夫です、乗客乗員の方々の処置に手を回せず……申し訳ございません。あの、あと少しできます。恐らく弱い私を先に攻撃してきますがお気になさらず、鬼の先が朧気でも見えるようになったので炎柱様と鬼の先の視点を切り替えてみて対処します。あと鬼には触れないと先を見れないので……」
「落ち着くんだ、一度深呼吸して君は俺の後ろに。色々聞きたいことはあるが時間がない。鬼に触れなければ鬼の先を見れないのならば……」
「後ろには下がりますが鬼の先を見るなと言う指示は受け兼ねます。鬼狩りに有効なものは活用するべきです、私は師範とのお約束を反故にするつもりはありませんのでご心配には及びません」
自分を見上げてくる風音の表情からは、引く気はないとありありと伝わるような……杏寿郎からすれば冷や冷やさせられるものである。
しかしなるほど……と杏寿郎は心の中で納得した。
風音の性格を今回の任務に合流させるに当たり、実弥は杏寿郎に説明してきていた。
『従うべき指示には必ず従う。だが鬼に対して有効なものを使うなと言う指示には必ず反論してくる。アイツなりに考えて出来ると確信したものだからだ。そん時は無理に押さえつけねェで好きにやらせろ。こっちが見てて無謀だと感じりゃ指示でなく命令を下せ』
というものだった。
まるで実弥が風音の先を見て説明してきていたかのような言葉を思い出し、場にそぐわないと理解しつつも笑いが込み上げてきた。
(これは不死川も手を焼くわけだな!ふむ、それならば……)
「分かった!君の思うようにしてみるといい!しかし俺から見て危険だと判断した場合は俺の言葉に従ってもらうぞ?」
「もちろんです、ありがとうございます。炎柱……杏寿郎さん、必ず一緒に帰りましょうね。私、もっと杏寿郎さんとお話ししたいです。……来ます!少し先を見せていただきます」
柔らかな笑顔は瞬時に消え去り、杏寿郎の許可を得るまでもなく先を見だした風音の頭を撫で……杏寿郎も戦闘態勢を整えた。