第11章 薄暮と黎明
「ぅ……あ、痛……い。でもあと五分で上弦の鬼がここに到着する。杏寿郎さんは……乗客の生存確認。自分で対処して……合流しないと……あれ?竈門さん?!」
中指の痛みが吹き飛ぶほどの光景が風音の目に飛び込んできた。
炭治郎が腹部から出血し、地面に横たわっている姿があったからだ。
「竈門さん!すぐに手当てをします!服を脱がしますが許してください!」
炭治郎に駆け寄り返事を聞く前に隊服の釦を素早く外して傷口を露わにする。
傷口は小さいものの出血は続いており、早く処置を施さなければ致命傷となり得るものだった。
「……とりあえず止血薬と化膿止めを塗って固定します。えっと……楓ちゃん、ずっと鞄の中でゴメンね。今から上弦の鬼と戦うから安全な場所で待機してて。実弥さんや柱の皆さんがここに向かってくれているはずだから、姿を確認したらここまで誘導を。お願いね」
鞄の中から楓を解放すると、空高くへと解き放ちここら一帯の巡回を開始してもらった。
そして風音は手早く炭治郎の処置を終わらせ、隊服を元に戻してやる。
「竈門さん、今から上弦の鬼がここへやって来ます。炎柱様の援護は私が務めますので……」
「待たせた!風音……君はその左手の中指の処置をしておきなさい。俺は竈門少年に止血させる。君が君の怪我の処置を行わないのであれば待機命令を出す。いいな?」
杏寿郎が合流したと同時に指示を飛ばされたので、それに反論することなく中指へと視線を落とした。
「かしこまりました。一分以内に終わらせて待機しております、その二分後に鬼が到着するので前衛はお願いいたします。後援はお任せ下さい」
早口で全て言い終わると、苦笑いを零した杏寿郎に気付くことなく左中指の処置に当たる。
「やれやれ、さて竈門少年。風音の処置は的確だが呼吸を使った止血方法を教える。まずはーー……」
上弦の鬼が到着するまであと二分半。
既に風音は止血薬、化膿止め、麻酔薬を指へと塗り包帯まで巻き終え日輪刀に手をかけ一点を見つめていた。
(誰も死なせない。杏寿郎さんのような優しく暖かい人を失いたくない)
数週間前に頭に流れ込んできた情報を何度も頭の中で反芻させ、風音は上弦の鬼との戦闘に備える。