第2章 柱
「……俺は知らねぇな。柊木なんて聞いたことない。悲鳴嶼は知ってっか?」
「柊木という名の剣士は数人記憶にあるが、どの剣士も十代の青年であった。私が柱になる前ならばお館様に聞くしかあるまい」
二人の返答は芳しくなかった。
しかし実弥はそれを予測していたらしく、あからさまに落胆の色は滲ませていない。
「そうかィ。なら別にいいんだ。任務で殉職したらしいんでなァ……もしアイツの父ちゃんのこと知ってる奴がいれば、教えてやって欲しいって思ってただけだ」
そう言ってほんの少し悲しげに風音の背を見つめた実弥に義勇が一言。
「不死川、(心の中に悲しみを押し込めながら人のために常に鬼を狩っているお前が)そんな顔をすることがあるのだな」
伝えたい言葉を大半心の中で完結させてしまっているため、実弥の表情がみるみる険しくなってしまった。
「テメェ、喧嘩売ってんのかァ?!あ"ぁ"?!」
なぜ怒り出したのか分からない義勇は立ち止まって首を傾げている。
いつもの二人の遣り取りに柱たちは苦笑いを浮かべるも、あまり免疫のない風音は立ち止まって振り返り、目をまん丸に見開いて驚きを隠せずにいた。
「不死川さん?!えっと……あ!このお店が美味しいらしいですよ!蜜璃ちゃんが教えてくれたんです!」
未だに義勇に対して威嚇を続ける実弥に駆け寄り、怒りに震える手を握って食事処へとグイグイと引っ張る。
「私、お外で食べるのも大人数で食べるのも初めてなんです。実はすごく楽しみで……不死川さんのお勧めを教えてください!」
無邪気に笑い自分を引っ張る風音に毒気を抜かれ、実弥は溜め息を零して引かれる力に抗わず食事処へと足を動かした。
「分かったから引っ張んなァ。てか俺もこの店に入ったことねェからお勧めなら甘露寺に……おいっ!」
「えっ?」
実弥に全意識を向けていた風音は足元にある石に気付くことが出来ず、それに足を取られて体がクラリと傾く。
咄嗟に体勢を整えようとしても間に合わず痛みを覚悟したのに、覚悟した瞬間に温かな何かに包み込まれた。
「はァ……もう怒ってねぇから前見て歩け。薬作れっからって無駄に傷作んなァ」
どうやら風音は実弥の胸に誘われたようで、視界にははだけた隊服とそこから覗く傷痕が多く残った胸元のみが映し出された。