第2章 柱
それに素直に従って蜜璃と手を繋いだまま道を歩き出した風音の背を眺めた後、柱たちも3人の後を少し距離を取りながら移動を開始した。
「何だぁ?あの目の色にトラウマでもあんのか?」
「ふむ、あの体格を見る限り、不死川に保護されるまで周りの人からいい扱いはされていなかったように見える」
2人が見る限りでは実弥に妙に懐いている不思議で普通の少女である。
しかし着物の袖から覗く手首が驚く程に細く痛々しく、思わず眉間に皺がよった。
「軽い栄養失調に陥っているようですしね。大方、瞳の色で鬼子と言われ迫害に近い扱いを受けていたのでしょう」
紫の瞳に黒から毛先にかけて紫に色を変える髪を持つ、蜜璃にも負けずとも劣らない可愛らしい女性である蟲柱 胡蝶しのぶも二人に倣って、風音が受けていただろう仕打ちを脳内に巡らせ眉間に皺を寄せる。
「嘆かわしい。一人の少女相手に鬼子など……南無」
「つまり俺たちも鬼子となるわけだな。面白い、今から柊木のいた所に乗り込んで一日中練り歩いてやろうか。大人数の鬼子が何をするでもなく家の周りをウロウロしようものなら、そいつらは夜眠る時はさぞかしいい夢を見ることだろう」
柱の中でも断トツに上背のある岩柱 悲鳴嶼行冥は風音の心中を思って涙を流しながら静かに拝み、あからさまに不愉快だと顔にも言葉にも出す左右で色の違う瞳を持ち口元を包帯で隠した蛇柱 伊黒小芭内は、今にも風音から昨夜までいたであろう場所を聞き出そうと体をうずうずと動かしている。
「……先に飯を食わせる必要がある」
凪いだ水面を連想させるように静かに言葉を発した青の瞳を持つ水柱 冨岡義勇の表情は、その言葉とは裏腹にやはり眉間に皺が寄っていた。
そんな柱たちの言葉をしっかり耳にしていた実弥は、楽しそうに蜜璃との話に花を咲かせる風音から離れ、後ろを歩く柱たちと合流を果たす。
「アイツに関してはお前らの想像通りだ。で、俺より先に柱になった悲鳴嶼さん、宇髄に聞きてぇことがある。柊木って名前聞いた事あるか?アイツの父親、どうやら鬼殺隊の剣士だったみてぇなんだ」
実弥の言葉に問われた二人だけでなく全員の動きがピタリと止まった。
まさか目の前の少女の父親が鬼殺隊剣士だったとは思いもしなかったからだろう。