第11章 薄暮と黎明
「炎柱様、お帰りなさいませ。これで数分間は鬼の動きを止めることが出来るはずです。この隊服いいでしょう?実弥さんが隊服を改良したのを見て私も袖をなくしてもらったんです」
師範である実弥は鬼を酩酊させるために血を使い、その継子である風音は鬼を毒で動きを鈍らせるために血を使う……その為に隊服を改良するこの師弟に杏寿郎は笑顔のまま固まった。
「鬼狩りに対するその意気込みは賞賛に値する!しかし女子が無闇矢鱈と肌を傷付ける姿は見ているだけで胸が痛む。この任務ではもう使わないこと、いいな?」
実弥にも言われているからだろうか、やはり風音は柱である杏寿郎の指示に反論することなく小さく頷き返した。
「よし!心配は尽きないが君の素直さは何とも清々しく気持ちがいいな!さぁ、君にはここともう一両を任せるので気を引き締めて任務に当たろう。何かあればすぐに俺を呼びなさい」
風音の肩をポンと叩き受け持つ車両へと向かおうとした杏寿郎の手を握り、驚き振り返った顔を見上げた。
「あの、私が三両を受け持つことをお許し願えないでしょうか?血を使わないと約束するので……杏寿郎さん……炎柱様には後に控える戦闘のために力を温存していていただきたいんです!」
先ほどまでの力強い表情は風音から消え去り、不安や焦燥に彩られた表情は杏寿郎の胸を締め付けた。
(不死川は何度この表情を目にしたのだろうか……どのように宥めどのように安心させてやっているのだろうか)
この場にいない実弥に答えを聞くことは叶わないので、杏寿郎なりに考えた方法で風音と向き合った。
「風音、俺には柱としての責務というものがある。それは君に肩代わりしてもらうわけにはいかないんだ。君に二両を受け持ってもらうだけでも随分と負担を軽減してもらっている。全てを君が背負う必要はない、互いに最善を尽くして励もう!」
実弥がよくしてやっているように頭を撫でると、なるほど撫でたくなる気持ちが分かるほどに触り心地のいい髪の感触に笑みが零れた。
そして風音も頭を撫でられる行為自体が好きなようで、悲しい表情から笑顔へと変化していった。
「はい!私のすべき事を全力で全うします!何か動きがあればご報告させていただきますね」