第11章 薄暮と黎明
「クシュンッ……あぁ、絶対実弥さんが私の噂してるんだ……期待に応えないと」
実弥が自身の任務を終えてこちらへと向かいだした頃、風音は汽車内の妻引戸を全て開けて回っていた。
肉塊が現れるのならば見通しを良くしておくにこしたことはないからだ。
そろそろ猪の被り物を被った伊之助が目を覚ます。
先を見た通りに進めば伊之助が目を覚ました後すぐに汽車内を肉塊が覆いはじめる。
「次に黄色い人、最後に杏寿郎さん。鬼は……汽車内に居なかった竈門さんと嘴平さんが倒してくれるから……私は上弦の鬼と対峙する杏寿郎さんの体力を残すために後ろ三両の人たちを守らないと。前三両は禰豆子さんと黄色い人、二両を杏寿郎さん……本当は後ろ五両を受け持ちたかったけど……」
そこまでの力量が今の風音にはない。
実弥ならば後ろ五両を受け持つくらいわけないだろうが。
「嘆いていても仕方ない。出来ることで役に立たないと……私がここに来たことが無意味にならないように……ふぅ、杏寿郎さんが目を覚ますまでは五両守りきります!」
風音が実弥のモノと似た日輪刀を抜き出すのを待っていたかのように、車両の至る所から先を見た時と全く同じ肉塊が蠢きながら姿を現した。
「夙の呼吸 参ノ型 凄風・白南風(しろはえ)」
足を踏み締めて前へと体を滑らせ、日輪刀を斜め下から上へと振り上げては斜め上から下へと振り下ろす。
体の勢いがなくなるまで幾度となく繰り返し、柔らかくも鋭い風で乗客を絡め取ろうとする肉塊を切り刻んでいく。
「細かく刻めば刻むほど回復は遅い。やっぱり鬼の体の一部なんだ……あ、雷の落ちるような音!黄色い人が起きたんだ!刻みながら杏寿郎さんの所まで!」
風音が禰豆子を通して見た未来はここまで。
ここから先は何が起こるか分からないので、柱である杏寿郎と合流して指示を仰ぐ必要がある。
実弥からは
『汽車内では基本的に煉獄の出す指示に従え。予知使うのは上弦の鬼を相手取る時だけにしとけよ、それまでその場のヤツらだけで乗り切れ』
と言われている。
予知を使い上弦の鬼と対峙する前に怪我を負わないようにするため……という理由かららしい。