第11章 薄暮と黎明
「クソ……思ったより手間取っちまった。爽籟、風音が言ってた場所までこっからどんくらいかかる?」
「離レスギテイル。本部ニ最寄駅カラ汽車ヲ動カシテモラッテモ、到着スルノハ夜明ケ前ダ。ドウスル?」
血で濡れた刀を懐紙で拭き取り鞘におさめた実弥は、爽籟の質問に応えるように地面を踏み締め走り出した。
「行くに決まってんだろうがァ!てか行かねェって言やぁ、お前全力でつついてくんだろ!俺が行くまで耐えろって言ったんだ、アイツが約束守ろうとしてんのに俺が守らねぇとかかっこわりィだろうがァ!」
風音が現在どういった状況にいるのか、遠く離れた場所にいる実弥には分からないが、乗客乗員や剣士たち……そして杏寿郎を助けるために懸命に動き戦っていることは分かる。
汽車内にも鬼が出ると言えど、上弦の鬼が出る場所まで全員が生きていたはずだと風音が言っていたので、そちらの鬼に関しては問題ないだろう…… 風音が行くことによって変な方向に未来が変わらなければ。
「アイツが首突っ込んだら何でかアイツが泣いちまうことが起きんだよなァ……何も起きなけりゃいいが……無理だろうなァ……」
別れ際に汽車の乗り方から降りるまでの手順を書き記した手紙を渡してやると、それはそれは嬉しそうに受け取りご丁寧にもそれを風呂敷で包んで大切そうに鞄の中へとしまい込んだ風音の笑顔が実弥の脳裏をよぎる。
実弥からすれば手紙たった一枚で幸せそうに笑う風音の笑顔が悲しみに満ちた悲壮なものへと変わることなど一切望んでいない。
それは共に任務を遂行する杏寿郎はもちろん、たまに風音の鍛錬に付き合ってくれている小芭内や蜜璃も同じくだろう。
そして鬼殺隊の為になるものを……と自らの血を差し出していることを知っている柱たちも同様なはずだ。
……鎹鴉をわざわざ実弥の屋敷に飛ばしてくるくらいなので。
「誰もお前が傷付く姿なんて見たくねェんだ。もっとその事自覚しろよなァ……」
風音には聞こえない小言を吐きながら実弥は爽籟の案内の元、約束を守るために夜道を駆けていった。