第11章 薄暮と黎明
風音の脚にしがみついている禰豆子の姿を見て一心地つくと、炭治郎は今の状況を確認するために辺りを見回した。
言ってもいいものなのか……一瞬悩んだものの、悠長な事を言っていられる状況では無いので禰豆子を通して見せてもらった先を伝えることにした。
「竈門さん、皆さんの手首に繋がれている縄を禰豆子さんに焼き切って貰ってください。まだ鬼は何処にいるのか掴めていないので私が探しに行きます。その後、鬼……だと思いますが肉塊がこの汽車すべてを飲み込むので対処お願いします」
そう言って禰豆子の頭を撫でそっと体を脚から離してから、まだ捜索していない前方車両へと足を向けるが、一歩踏み出す前に手首を掴まれて動きを止められた。
(何の根拠もない話なんて……信じれないよね。何て説明したら……)
「ありがとう!禰豆子、皆の縄を焼き切ってくれ!風音、鬼の場所なら俺が匂いで辿れるから鬼は俺が必ずどうにかするよ!風音を俺は信じる!だから汽車の中は風音に任せたい。俺の鼻がいいように風音にも何かあるのかなって思うから……今は何も聞かないよ。じゃ、よろしく!」
「あ、はい!ありがとうございます!鬼をお願いします」
既に通路を移動している炭治郎に感謝を述べると、手を振って戸の向こう側へと姿を消していった。
目を覚ましていて車両に残っているのは、炭治郎のお願いを聞き入れ全員の縄を焼き切り風音の隣りへと再び戻ってきている禰豆子だけである。
その禰豆子と視線が合うようにしゃがみこみ小さな体を抱きしめた。
「禰豆子さんのお兄ちゃんは優しい人だね。裁判の時に揉めた実弥さんの継子である私の話を疑うことすらしなかった。そして禰豆子さんも……裁判の時に痛い思いをさせられたのに、こうして人のために戦ってくれてる。ありがとう……」
実弥本人から禰豆子を日輪刀で何度も刺したと聞いていた。
禰豆子は言葉を上手く紡ぐことが出来ないので風音の言葉に返答はなかったものの、小さな手を背中に回してキュッと羽織を握り返してくれたので想いは伝わったのだろう。
「私も一緒に戦わせてね。と言っても……禰豆子さんにまた皆を焔で燃やして貰うところからお願いしなきゃだけど……お願いしていい?」
「んむ!」
こうしてこちらも炭治郎と同じように動き出した。