第11章 薄暮と黎明
杏寿郎の手首と少女の手首を繋げるように結ばれている縄が原因で眠っているのならば間違いなく鬼が関わっている。
そんな得体の知れないものを勝手にどうこうなどして杏寿郎たちに危害が加わるかもと思うと、どうしてもその縄を切る事が躊躇われてしまった。
「下手に手は出せないな……禰豆子さんは鬼だよね?鬼の先は見えないけど……ごめんなさい、少し試させて」
「ん……?んむ!」
先ほどから音としてしか聞き取れない言葉を発しているが、感情を体全体を使って示しているので非常に分かりやすい。
今も首を傾げた後に頷き返してくれたので……
意味はよく分からないけど、構わないよ
と言う意味だろう。
あまりにも可愛らしい禰豆子の仕草に笑顔になりながら、綺麗な長い黒髪をもつ頭を撫で撫で。
「ありがとう。では早速……あれ?見える……大変な事だけど考えるより先に見ないと」
しばらくの間集中して流れてくる情報を頭の中で整理し、禰豆子をゆっくりと床に下ろしてやった。
「禰豆子さん、お兄ちゃんがもうすぐ目を覚ますよ。そっか、貴女は本当に鬼殺隊として人を助けてるんだね」
見えたものは乗客を救うために欠かせない剣士たちの手首に結ばれた縄を、自らの血鬼術らしき焔で焼き切る姿。
そして風音より少し小さい背丈まで成長した姿で、よく分からない肉塊から人々を懸命に身を呈して守り戦う姿だった。
「私は柊木風音。これから鬼殺隊の仲間として一緒に頑張ろうね」
「んむーー!」
……ここが鬼の出る汽車の中でなければ風音は目の前の愛くるしくて仕方のない幼子に身悶え、床の上をのたうち回っていたかもしれない。
しかし今はいくら禰豆子が可愛らしいと言えど緊急を要する事態なので、元気よく手を上げて返事をしてくれた禰豆子の背中を押して、もう僅かな間で目を覚ます炭治郎の前へと促し……足を止めた瞬間、炭治郎が叫び声と共に目を覚ました。
その叫び声に驚いた小さな体が跳ね上がり、ピタリと風音の足にしがみついて来ている。
「こんばんは、竈門さん。首……大丈夫ですか?!包帯やお薬の用意はあるのでいつでも言ってください!」
「あれ?!風音、君もこの汽車に乗ってたのか?……えーっと傷はないから大丈夫、それより今は一体……禰豆子、お前も無事でよかった」