第11章 薄暮と黎明
遠征ということで風音は今日生まれて初めて汽車というものに乗った。
何から何まで初めてで不安だった風音の強い味方は、こっそり鞄の中におさまってくれている楓と実弥が別れ際にくれた手紙であった。
切符の買い方から汽車への乗り方、乗ったあとから駅舎を出るまでの手順を箇条書きで書き記してくれていたのだ。
ちなみに後書きには
『汽車の乗り方よりも遠征後の心配しろよなァ
てかお前人生二回目の汽車、切符すら買えねェんじゃねぇか?
駅舎閉まってんぞ』
だった。
まさか無賃乗車するなど出来ないので、楓からの助言で切符売り場に運賃を置くことで許してもらうこととした。
そうして人気の全くない駅舎で楓と身を寄せ合って過ごすこと早数時間……到着した時はまだ完全に日は落ちていなかったのに、今は身震いしそうなほどの暗闇と静寂が広がっている。
「今日の任務、日が暮れる前に終わるようにってお館様が配慮して下さったのかな?鬼がいたのも廃墟だったし」
「ソウカモシレマセンネ。風音サンガ煉獄様ノ任務ニ赴クト予知サレタノカモシレマセン」
例の汽車がまもなく通過する駅舎までは任務地からさほど遠くはなく、風音が走れば難なく暗くなる前に到着することが出来た距離だった。
「だよね……そこまでしていただいたのだから、絶対に全員無事に帰らなきゃ。実弥さんの期待を裏切るなんてしたくないし……楓ちゃん、鞄の中に入っててもらっていい?汽車の音が聞こえてきた」
遠くから線路を走る汽車の音が響いてきたので、膝の上に乗っていた楓をたくさんの手拭いでふかふかにした鞄の中へと移動させ、いつでも飛び乗れるよう駅舎の端へと足を動かす。
「一発勝負……高さや速さはさっきので調べといたから大丈夫なはず。あ、見えてきた。よし、楓ちゃん行くよ!衝撃に備えてて」
汽車が目前に迫り楓の返事は聞こえないが緩衝材の役目を果たす手拭いを入れているから大丈夫。
そう信じて轟音を響かせながら駅舎を通り過ぎようとする汽車を追いかけるように助走をつけて走り、客車の屋根へと手をかけた。