第11章 薄暮と黎明
こんな時に限って、師範として柱として接してくる風音を睨み付けたくなった。
そもそも一般剣士であったとしても上弦の鬼と遭遇すれば、適わないと理解していても立ち向かうし逃げる剣士はそうそういない。
何となく鬼殺隊に入った剣士など知ったことではないが、風音のように鬼に辛い人生を強いられた剣士の鬼に対する思いは軽くないからだ。
我儘で言ってくれれば引き止めるのも容易いのに、消極的な言葉を一切吐かず感情的にならないのは実弥の性格を知っているが故である。
剣士として咎めるところの無い返答をしただけの風音に溜め息を漏らした。
「俺はお前の師範だ。胡蝶や煉獄にもお前のことは俺に一任しろって言ってある。重症人であるお前を止める……って意味で言ったんだがなァ」
どうしてもやはり風音は思い通りになってくれない。
誰が数日であの大怪我が完治に近い状態まで漕ぎ着くと予測出来るだろうか。
今更ながら継子を持つという事の重さを嫌というほどに知らしめられた実弥は風音の顎に指を添えて顔を上げさせた。
「俺も任務が終わり次第そっちに向かう。それまで何がなんでも持ち堪えろ、そこまで言ったからにはお前はもちろん煉獄や乗客……他の剣士の命を繋ぎ止めろ。俺の期待裏切んじゃねェぞ」
柱である実弥の制止を再三退け任務に赴くことを頑として貫き通したにも関わらず、最終的には認め期待してくれている実弥に笑顔を向け小さく頷く。
「かしこまりました。ご期待に必ず応えてみせます。実弥さん、ありがとう」
「……煉獄にもしもの事あったらお前泣くだろ。それがなけりゃあ甲でもねェお前を上弦の鬼出るって任務に行かせるか。柱三人分の強さって言われてる鬼の……」
「え?柱三人分?……あ、独り言!うん、気を引き締めて……実弥さん!ほっぺたが陥没しちゃう!」
無謀にも程がある風音はそれから一時間ほど実弥から激しい叱責を受け続け、眠りにつくまで気を落としていたらしい。