第11章 薄暮と黎明
「行くよ。このままいけば明後日に遠征の任務が私に入るから、そのまま駅舎に向かう予定。杏寿郎さんと同じ駅舎からは乗れないけど、途中の駅舎から走ってる汽車に飛び乗ろうかなって」
対策を練るためここ数日間、実弥の許可の元、実弥の先を見せてもらい無数に枝分かれする先を見せてもらっていた。
今は念の為杏寿郎との接触を断たされているので汽車の任務について詳しく知ることが出来ない。
それならば他の一般剣士よりも僅かでも杏寿郎の未来を変えることが可能かもしれない自分の未来を知りたい……と渋り諌めてくる実弥をどうにか説き伏せ知り得た貴重な情報である。
その情報を活かした方法を今初めて聞かされた実弥は驚き頭を上げ、赤みの戻った頬を反射的に抓りあげた。
「何考えてんだァ?!汽車に飛び乗るなんて聞いてねェぞ!汽車って何か知ってんのか?!歩いてる奴に飛び付くのと訳が違うんだぞ!」
「し、知ってるよ!汽車には及ばないけど脚には自信あるから大丈夫……だと思う!頑張って屋根の上に飛び乗るから……痛いです、ほっぺたが」
正気の沙汰とは思えない風音の案に実弥の怒りは頂点に達した。
それでもこれ以上怒鳴りつけないのは、元気になりつつあると言えど風音が一応怪我人だからだ。
「お前の思考回路どうなってんだァ?失敗したら汽車に轢かれて死んじまうんだぞ?!なんでそんな跳ねっ返りな性格なんだよ……で、それに失敗しねェ、煉獄の足手まといにならねェ自信あんのかァ?相手は上弦の参なんだろ、今のお前じゃ足元にも及ばない鬼だぞ」
頬を抓っていた手は痛みを和らげるようにそっと添えられたが、実弥の表情は依然として厳しいままだ。
自信がない、不安がある……など口に出そうものなら、それこそ家の柱と体に鎖を繋がれて風音を任務に合流させてくれないだろう。
実弥の気迫に負けないよう握り締めたままだった手に力を入れ頭を下げた。
「今回は気を引き締めた状態で挑むので失敗しませんし、杏寿郎さんの足手まといにならないと誓えます。必ず全員で生きて帰るので信じて下さい。私の力量だけだともちろん足元にも及びませんが、力を使って杏寿郎さんの後援をしっかり務めます。師範が育てて下さったこの身を無駄に致しません」