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涼風の残響【鬼滅の刃】

第11章 薄暮と黎明


まだ夜の帳が下りるには早い時間。
太陽が山間に顔を隠し始め空を橙に染める頃、瞼がゆっくり開き翡翠石のような瞳が徐々に露わになっていく。

「……夕日?実弥さん……どこだろ?」

「目ェ覚めたかよ」

顔を向けた先と反対の方向から実弥の声が聞こえ起き上がろうと体に力を入れるが、やはり腹の損傷が激しいため力が入らず実弥の姿を追うことすら出来ない。

今にも泣いてしまいそうなほどに表情を歪めた風音の頬に手を当てて撫でてやると、ホッとしたように顔を綻ばせ体をベッドに沈みこませた。

「近くにいてやるからもう少し寝てろ。話は胡蝶から聞いてる、俺らで何とかするから心配すんなァ」

「うん……実弥さんの手あったかいね」

そろそろと顔だけを動かして手が伸びてきている方を見ると、窓から差し込む夕日に照らされた実弥の顔があった。
よく皺を寄せている眉間にはやはり皺がよっている。

だがその表情はとても悲しく風音の涙を誘った。

「ごめんなさい……心配ばかりかけて。私……」

何か言葉を紡がなければと口を開くと、ふわりと頭が優しい力で抱き寄せられ風音の大好きな実弥の匂いで満たされた。

「もう喋んなァ。謝罪も反省も言いてェならお前が元気なった後で聞いてやる。その代わり俺の小言も覚悟しとけ……頼むから無理してくれんな、また鬼に大切なモン奪われちまうのかって……気が気じゃなかったんだぞ」

静かな声音は僅かに震えており、どれほど実弥に心配をかけ辛い思いをさせたのかが痛いほどに伝わって胸の中が罪悪感に染まっていく。

「ふぅ……だが煉獄も大切な奴に違ぇねェから難しいもんだなァ。だから今は謝んなくていい。よく頑張って……よく生きててくれた。今はそれだけで十分だ」

「実弥さんは優し過ぎるよ……もう……本当にワガママになっちゃうから……叱ってよ」

腕を実弥の背中に回したくても鉛を吊るされているように重くそれは叶わないので、代わりにピタリと寄り添わしてくれている胸元に頬を擦り寄せた。
すると頭を抱く実弥の腕の力が僅かに強くなり、温かさと共に嬉しさと安心感で風音を包み込んで静かに涙を伝わせた。
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