第11章 薄暮と黎明
それが一番厄介なのだ。
尊重してやりたい風音の長所でもあるため、それを押さえつけることをしたくないと指摘するのを控えた結果が今の風音の状態である。
どうしたものかと溜め息を零した数秒後、しのぶが処置室から歩み出てきて二人を手招きした。
声を出さない選択をしたしのぶにならい二人は静かに立ち上がって処置室の中に足を踏み入れる。
目に入ったのはいつもより顔色の白い風音が疲れからか麻酔の影響か、どちらかは判別出来ないがベッドの上で眠っている姿だった。
そのいつもより白い頬をそっと撫でてみるも、当然ながら身動ぎ一つせず翡翠石のような綺麗な瞳を覗かせることもない。
「こんなんになっちまって……泣きすぎて瞼も腫れてんじゃねェか。最近泣いてばっかだなァ、お前」
せっかく那田蜘蛛山での出来事に自分の中で折り合いをつけて元気に過ごしていたのに、今となっては元の木阿弥どころか悪化してしまっている。
寝顔だけだと穏やかに見えても額に巻かれた包帯が痛々しい。
「すまない、風音。さぞ痛く辛かっただろう。胡蝶、風音は大丈夫なのだな?」
「はい、麻酔が本当に効いているのかと思うくらいに話し続けるほどに元気です。話し終わると嘘のように眠ってしまうのですから……相当な精神力ですよ。起こしてしまってはいけませんので、別室に移動しましょうか」
もう少し頬に触れていたい気持ちを抑え別室に移動して聞いたしのぶの話は衝撃的なものだった。
まずは怪我の状況。
右肋骨二本骨折、腹部強打による内臓損傷。
額は数針縫う裂傷に左眼強打。
瞼の腫れはなかったものの、一瞬でも感覚の共有を切り離せていなければ眼球破裂をして失明の恐れがあるものであった。
「額の傷以外はどれも受けたと同時に気を失ってもおかしくないくらいのものです。採血した血がまさか輸血に使うことになるなんて思っていませんでした」
「……生きてるだけで奇跡じゃねェか。目ェ覚ますんだよなァ?」
しのぶが大丈夫だと言っていたので目を覚ますことは分かっているが、あまりの重傷具合に不安になるのは仕方がないだろう。
実弥や杏寿郎よりも遥かに小さく細い体で受けるにはあまりにも負担の大きな損傷なのだから。