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涼風の残響【鬼滅の刃】

第11章 薄暮と黎明


杏寿郎に促された炭治郎は少し迷う素振りを見せたものの、気を揉んでいる二人の前にいつまでもいることが躊躇われ頷いて立ち上がった。

「はい!そうさせてもらいます!煉獄さん、不死川さん、俺は部屋に戻りますね。風音にお大事にって伝えてて下さい」

「あぁ、必ず伝えておく。君も息災でな、溝口少年」

「ありがとうございます!あと煉獄さん、俺は竈門です!」

ようやく自分の名前を訂正出来た炭治郎は丁寧におじぎをして、ゆっくりとした足取りで病室へと戻っていった……笑顔で固まる杏寿郎と変わらず向こうを向いたままの実弥を背にして。

「ふむ、竈門か。……不死川、俺は今日のことで思ったんだ。風音が俺たちを含む剣士たちの先を見るということは、本来俺たちが受けるはずだった傷の痛みや凄惨な光景を、風音が代わりに負って見るということだ……と」

額や目、脇腹、腹を…… 風音が痛みを覚えていたであろう、未来の自分が受けるはずだった箇所を撫でて杏寿郎は悲しげに瞳を揺らせた。

実弥が感覚を切り離せと言っても切らず先を見ることを望み、更に痛みを受け入れた風音はどんな気持ちでそれを受け、どのような光景を見て心を痛めたのかと考えるだけで杏寿郎の胸を締め付ける。

「そうなるなァ。だから胡蝶は風音が鬼殺隊に入隊することさえ反対してたんだよ……だが放り出して一人勝手させて今以上に無茶して死んじまうより、俺が見ててやった方がまだマシかと思ったんだがなァ」

上手くいかない。
自分の任務ではほぼ無傷で帰ってくるくせに、合同任務になると多くの傷を体と心に作って帰ってきてしまう。

本人が望み進んで行動した結果なのであまり強く叱責することをしていなかったが、今になって強く言い聞かせておけばよかったと後悔が生まれた。

感覚の共有を自在に切り離せてたとしても身体的な痛みを取り除けるだけで、今のままだと心に傷を負い続けてしまうから。

「何でも深く突っ込み過ぎんだよ、アイツは。程度ってモンを考えらんねェ。人の気も知らねェで」

「そうだな。だがそれも風音のいいところなので不死川も強く言えんのだろう?人を慈しめる人はそれだけで尊い存在だからな」
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