第11章 薄暮と黎明
しのぶが風音の治療を始めて数時間が経過した。
実弥が処置室から出てすぐにやってきた杏寿郎と初めのうちはポツポツと話していたが、もう数時間は互いに言葉を発していない。
「あの、煉獄さん、不死川さん。風音の具合はどうですか?」
そこへ自身の機能回復訓練を終えたであろう炭治郎が姿を現した。
その姿を実弥は横目で一瞥すると、再び処置室の扉へと視線を戻して溜め息を零す。
「テメェに教えてやる義理ねェだろ。怪我人はさっさと部屋戻って寝てろや」
静かながらも険のある声音に炭治郎は一度視線を床に落としたが、めげることなく2人の側に歩み寄って同じように廊下へと腰を下ろした。
「風音は那田蜘蛛山で鬼に殺されかけた剣士を助けてくれたんです。自分の額の怪我は後回しにして、助け出した剣士の怪我を優先して手当てしてくれました。そんな優しい子の具合が知りたいんです」
その内の一人を助けられなかったと風音が嘆き悲しんでいた時のことだろうと分かった。
先を聞きたい気持ちもなくはなかったが、当時の様子を知っているのが炭治郎であることが実弥に歯止めをかけてしまう。
鬼を連れた剣士がこの場に来ることでさえ実弥にとって苛立ちを沸かせるものであり、さっさとこの場から姿を消して欲しいと言う思いが頭を満たしていく。
「……俺に話し掛けんなァ。俺はテメェを認めてねぇ、ただでさえこっちは気ィ張ってんだ。怒鳴られねぇうちに……」
「不死川、あまり無下にしてやるな。風音がこの場にいれば悲しんでしまうだろう?溝口少年、風音は胡蝶に手当てをしてもらっているところだ。心配ない、胡蝶の腕は確かであるし風音も頑張っているからな」
舌打ちして炭治郎を視界から外すように向こうを向いてしまった実弥に変わり、杏寿郎は悲しげに眉を下げている炭治郎へと現状を教えてやった。
「そうですか……ありがとうございます。俺、風音に謝りたいんです。頭突きしてしまったこと、まだ謝れてなくて」
「そうか、ならば後日にでも風音に直接言ってやるといい。さぁ、君ももう部屋に戻るんだ。早く体調を万全にしないと体に良くないからな」