第11章 薄暮と黎明
「はい……早く治すから待ってて下さい。私が必ず……見つけるから。どんな手を使っても杏寿郎さんが傷付かない方法を……」
「あぁ、ありがとう。さぁ、行っておいで」
遠ざかる杏寿郎の気配を追うように風音の手は伸び続けたが、廊下の角を曲がるとその手はダランと力をなくして実弥の歩く振動に任せて揺れた。
「実弥さん……今抱えてくれてるのは……実弥さん?近くに居てくれてるの?」
未だにしのぶの手のひらで目を覆われているので風音からは実弥の姿は見えない。
いつもなら手の感触や暖かさ、気配で実弥だと気付いているが今は全ての感覚が麻痺しているのか誰に運ばれているのかすら分からない状況だ。
「そうだ、もうお前喋んな。吐血してんの分かってんだろ……近くにいてやるから静かにしてろ」
実弥の言葉が耳にようやく届き安心したのだろう、風音は言われた通りそれ以上言葉を発することなく大人しく運ばれ続け処置室へと辿り着いた。
「中のベッドへ運んであげて下さい。引き離すのは少し可哀想ですが、不死川さんは外でお待ちを」
清潔な処置室の中へ足を踏み入れ、血塗れで呼吸の浅い風音をベッドへと寝かせてやり、薄く開かれた瞼から覗く瞳に自身の姿を映してそっと頬を撫でる。
「俺は外で待ってる。それくらい我慢出来るなァ?」
「……うん、大丈夫。実弥さんも……いなくならないで」
弱々しく上げられた実弥を求める手を握りしめた。
「いなくならねぇって約束しただろうが。風音はまず自分の心配してろ……俺は外に出る。胡蝶、あとは頼んだぞ」
ここにいたとしても自分が風音にしてやれることはない。
未だに風音の頬に伝い続けている涙をせめてもと拭ってやると、実弥は準備の整ったしのぶの肩に手を当てて風音の手を離した。
「はい、お任せ下さい。必ず救います」
「あぁ……じゃあまた後でな。しっかり治療してもらえ」
小さく頷き返してきた風音の頭を撫で、実弥は血の匂いのたちこめる部屋から廊下へと移動し……壁に背を預けてその場で祈るように両手を握りしめながら腰を下ろした。