第11章 薄暮と黎明
「んだよ?!そんなの後で……」
しかしやはり風音は頑なに首を左右に振る。
……辛うじて防いでいたものだろうか、額にもうっすらと傷が浮かび上がり左目は痛そうに強く瞼を閉じている。
「杏寿郎さん……汽車……汽車の任務、鬼が出ます……ぐっ、ゲホッ!」
尋常ではない量の血を吐き風音の隊服を赤く染めた。
「いい加減にしとけよ!死ぬつもりかァ?!テメェが死んじまったら意味ねェだろうが!」
「もういい!やめてくれ!君が死んでしまう……頼む、もう見ないでくれ」
多くの叱責を受けた風音は溢れ出た血を拭い取り、自分へと伸ばされた杏寿郎の手を握った。
「もう……切りました。上弦の……行かないで……お願いします……どうか……死なないで!ヤダ!実弥さん、イヤ!お願い、どうにかしてよぉ……」
今まで風音からここまで願われたことはなかった。
こんな形で願われた願いは実弥の胸を締め付け、体に負っているであろう傷に響かない程度の力で抱きすくめてやった。
「もう分かった、分かったから叫ぶな。頼むからもうやめてくれ……俺がどうにかしてやるから叫ぶんじゃねェ」
「こんなの……イヤ……どうしてこんな事になるの?!実弥さん……もう大切な人がいなくなるのイヤ!ゲホッ……まだ全部伝えられてない!まだ気を失うなんて出来ない!お願い、私の話を聞いて……」
興奮状態に陥っている風音に実弥の声が届かない。
そんな風音を落ち着かせるため、しのぶは涙がとめどなく流れ落ちてくる風音の目にそっと手を置き視界から入ってくる情報を遮断した。
「大丈夫ですよ、風音ちゃん。煉獄さんのことは不死川さんや私で対策を考えますから。お話なら処置をしながら私が聞きます、今は無理をしてはいけません、いいですね?」
返事はないもののようやく口を閉ざしたので実弥を促してしのぶは廊下へと足を動かすが、風音が一向に杏寿郎の手を離さないため杏寿郎も共に出ることとなった。
このままでは処置が出来ないと、杏寿郎は震える手に自分の手を重ね合わせてそっと外してやった。
「大丈夫だ、俺は死なない。確かに汽車の任務は受けているが君が命懸けで与えてくれた情報を生かしてみせる。安心して胡蝶に手当てしてもらいなさい」