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涼風の残響【鬼滅の刃】

第11章 薄暮と黎明


いざ杏寿郎との勝負が始まると、先に実弥としていただけあってどうにかこうにか湯呑みを抑えることに成功している。
かと言って風音が杏寿郎に湯呑みをかけることは叶っていない状況ではあるが。

「やるではないか!ではもう少し速度を上げるぞ!」

「え?!ちょっ……え、え?!」

どうやら手加減されていたようだ。
なるほど、実弥より速度がゆっくりだと感じたわけはこういう事だったのかと納得した時には、杏寿郎は風音の押さえる手を容易に避けて湯呑みを持ち上げた。

「ふむ……この薬湯はなかなか匂いが独特なのでかけてやるのは可哀想だな」

「んな生易しいことやってっとコイツの訓練になんねぇだろ」

ギュッと目を瞑った風音を思いやり杏寿郎は手を止めてくれたのに、まさかの実弥がかけるように促してしまった。
それでも杏寿郎は頭から薬湯をぶっかけるのに気が引けるようで、湯呑みと風音を硬い笑顔で見比べている。

「杏寿郎さん、大丈夫ですよ!もうすでに今更なので思いっきりかけてください!……こうやって」

止まった杏寿郎の湯呑みを握った手を自分の手で包み、飲み口を自身へ向けたと同時に風音の表情が悲壮に満ちた。
そして次に苦痛に顔を歪めた表情へと変わり、口の端から赤い筋が伸びて隊服へと滴り落ちる。

その場の全員が突然の異変に呆然とする中、実弥が一番に動き風音の体を抱え上げて部屋の隅へと移動させた。

「風音?!何があったァ?!お前……肋折れてんじゃねぇのか?!誰のが流れ込んできたんだ……クソ!感覚切り離せェ!」

しかし痛みを感じているはずの風音は首を左右に振るだけ。

「何があったんだ、不死川!風音は誰の……」

「分かんねェよ!分かんねェうえに感覚切り離そうとしやがらねぇんだ!胡蝶、どうか……」

「とりあえず処置室に運んであげて下さい。竈門君、色々気になると思いますがここで待機していてください。早く」

苦しむ本人を抜きに話が進む中、それを止めるように実弥の頬に風音が手を当てた。

「待って……気を失う前に……聞いて」
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