第11章 薄暮と黎明
道場へと辿り着いて初めに目にしたのは目にも留まらぬ速さで追いかけっこ……のようなものをしている実弥と杏寿郎だった。
「胡蝶さん、あれは何をしているんでしょうか?」
「本来は動体視力や反射神経などを鍛えるものなのですけど、健康な柱同士が全力ですることではありませんね。柱なら柱用の訓練をしてほしいものです」
どうやら柱用の機能回復訓練ではなく、目の前で繰り広げられているのは一般剣士用の訓練らしい。
それでも柱がすれば柱用になるのでは?と思えるほどに凄まじいものである。
「煉獄、ちょっと止まれ。風音、体調は悪くねェか?」
「む、風音と胡蝶か!研究の為に赴いていたと聞いたが大丈夫なのか?」
あの速さで動いていても実弥には風音が見えていたらしい。
もしかすると風音がそのうち来ると分かっていたので、入口の方にも意識を向けていたのかもしれない。
少し心配そうな実弥と杏寿郎はあれだけ動いていたにもかかわらず汗の一滴すら流しておらず、静かに風音の到着を待っていたかのようだ。
そんな二人に心の中で慄きながら風音は笑顔でコクンと頷いた。
「師範、体調はいたって良好です。杏寿郎さんも心配して下さってありがとうございます。柱用の機能回復訓練じゃないって胡蝶さんが言ってましたが、今の私にも出来るものってありますか?」
さすがに採血した後で走りたいなどと言えば目の前にいる三人から大目玉を食らうのは確実だが、風音とて機能回復訓練がどのようなものか気になるし出来るものがあるならお願いしたい。
そう思っての言葉にしのぶが一つ掲げてくれた。
「では薬湯を掛け合いましょうか!」
「薬湯?」
首を傾げる風音と、そんな風音に哀れみの視線を向ける実弥と杏寿郎。
何が行われるのか一人分からないまま、しのぶに手を引っ張られて湯呑みがたくさん乗った卓袱台の前へと連れてこられた。