第11章 薄暮と黎明
「ありがとうございます。胡蝶さんにそう言ってもらえると気持ちが軽くなりました。お館様から近々克服すると仰っていただいていたのに克服出来ず、少し焦っていたのかもしれません」
実弥も力のことに関してはあまり叱責してこない。
叱責されるのは無理をして先を見続け体に多くの傷を作った時だけである。
稽古や任務については相変わらず厳しいにも関わらず、力については加減をしてくれるのでぬるま湯に浸かっているような感覚に陥っているのだ。
「今日言って明日に克服できるほど優しい力ではありませんからね。あまり焦ってしまっては空回りしてしまいますよ?不死川さんもこうして毎回研究の時は付き添っているくらいです、焦らず慎重に進めていきましょう」
「はい!何故か最近はいくら血を流しても直ぐに回復するので、研究で必要になればいつでも呼んでください。あ……慎重に進めるのは進めますけど」
一瞬しのぶの笑顔の中に怒りが見え隠れしたので慌ててあとの言葉を付け加えると、いつも通りの優しい笑顔に戻り一心地……
普段の心の中の葛藤を和らげてもらい、採血を終えた今でも何故か元気な風音が現在気になることは実弥の機能回復訓練(柱用)なるものである。
機能回復訓練がどのようなものかは分からないが、柱用と付くからにはそれ相応の厳しい訓練をしているに違いない。
「無茶をすれば不死川さんから叱られてしまうので、無茶をし過ぎないようにですよ。さぁ、風音ちゃん。体調が悪くなければ不死川さんの様子を一緒に見に行ってみませんか?気になっているでしょう?」
しのぶは心の中が読めてしまうのだろうか。
的確に風音の心の中を読み促してくれたことに驚き目を見開いたが、願ってもないお誘いを断るわけもない。
「ぜひ見学させて下さい!機能回復訓練は言葉通りなら怪我などをして強ばってしまった体を元に戻す訓練ですよね?実弥さんは怪我をしていないのにそれをするということは、やっぱり……」
「はい、一般剣士なら数分で音を上げる訓練です。不死川さんのことですから……他の剣士たちを巻き込んでいるかもしれません。少し急ぎましょうか」
しのぶの表情に緊張が走った。
そんなしのぶの後に続き診察室を出て……急ぎ足で道場へと向かった。