第11章 薄暮と黎明
「さて、風音ちゃん。今はどこまで任意で先を見られるようになりましたか?」
あれから二週間ほど経過し、現在はしのぶのいる蝶屋敷へと実弥と共に研究のためにお邪魔している。
ちなみに実弥はただ待っているのもあれなので機能回復訓練(柱用)なるものを受けるらしく、道場へと赴いていて診察室には風音としのぶのみだ。
「今は一ヶ月程先まで見れるようになりました。突然流れ込んでくるものは痛みさえあればどうにかなるので、命の危険も大幅に減ったと思うのですが……感覚の共有に関してはまだ難しいです。戦闘中だと特に様々な感情に左右されてしまって」
最悪の場合流れ込んでくるものを痛みで遮断してしまえば風音の身に危険が及ぶことはなくなる。
しかし風音が望んでいるのはそうではなく、戦闘中に先を見続けて先回りすることで剣士たちの負担を減らすこと。
実弥には
「目の前の鬼に対して憎しみだけ向ければいいじゃねェか」
と言われているが、なかなかそう簡単にいくほど風音は器用ではない。
「そうですか……不死川さんにも言われているかもしれませんが、目の前の鬼に対して憎しみのみを向ければ解決出来そうですけど…… 風音ちゃんは怪我人などや近くにいる隠に気を配ってしまうから難しいかもしれませんね」
しのぶは実弥と同じ意見だった。
「他に意識を向けられるほど力量があれば問題ないのですけど、力量がないのに他にも意識が向いてしまうので自分の事ながら呆れているところです。ほぼ毎日力を使っているので、毒の要素が強くなっていくことだけがまだ救いだなぁって……」
シュンとして俯いた頭に優しい刺激が与えられた。
何かと確認するまでもなく、しのぶが慰めるために撫でてくれているのだ。
「柱はともかく一般剣士の風音ちゃんが目の前から入ってくる情報と脳内に流れてくる情報が違うのに、それを瞬時にさばいて動けているだけでも凄いことだと思いますよ?こうして鬼に対して有効な毒薬の研究にも貢献してくれているんです。もう少し自分を褒めてあげてください」
姉がいればこんな感じなのだろうか……と穏やかな笑みを向けて頭を撫でてくれているしのぶを見る度にそう思えてくる。