第2章 柱
「あ……えっと。初めまして、柊木風音です。お薬は母が調合していたのを教えてもらっていたので、少しばかり覚えがあります。あと……不死川さんは怖くないです。頭を撫でてくれますし、一晩中脚の上で寝かせて……」
『え?脚の上?』
「おまっ……!だァアア、もうお前も黙ってろォ!話がややこしくなんだろうがァ!」
ポカンとする風音の頭をグシャリと乱暴に掻き乱し、強制的に黙らせるも時すでに遅し。
蜂の巣を叩いたかのような騒がしい声が響き渡った。
(あれ?私……何かやらかしちゃった……?でも不死川さんが優しいのは本当だし……どう言えば伝わるんだろう)
実弥に乱された髪をどうにか手早く修正して実弥を仰ぎ見ると、柱全員から詰め寄られ先ほどより険しい表情となってしまっていた。
「あの!誤解を招いてしまったならごめんなさい!行方不明と聞かされてたお母さんが実は亡くなってて……ちょっと弱って運んでくれてた途中で寝た私を起こさないでいてくれただけなんです。だから……怖くないんです。あの時は迷惑かけてすみませんでした」
額と頬に青筋を立てている実弥へ頭を下げると、これ以上余計なことを言ってなるものかと言わんばかりにちょこちょこと実弥の陰へと姿を隠し、その場の全員の視界から消え去って行った。
「……黙ってろっつっただろォ。はァ、お前らもう帰れ。これからコイツと話あんだ。テメェらがいたら」
「そうだったのね!そう……お母様が…… 風音ちゃん、そんな時は美味しいご飯をたくさん食べるのがオススメよ!ここで会えたのも何かのご縁だもの、皆で食べに行きましょ!」
実弥の言葉を遮ったのは本日柱となった甘露寺蜜璃。
同じ女子である風音も見入ってしまうほどに可愛らしい少女である。
長い髪を三つに分けて三つ編みにしており、その髪は桃色から毛先にかけて薄緑に染まっている。
そして大きなまん丸の瞳は風音よりも薄い緑色だ。
そんな蜜璃は実弥の後ろに隠れてしまった風音をひょっこり覗き込み、胸の前で握られていた手を取って引き寄せた。
「それは……嬉しいお誘いですが、不死川さんに無理を言って連れて来てもらったので……」
実弥と二人旅だと思っていた風音の胸中は穏やかでなく、今にも目を回しそうな程に混乱している。