第2章 柱
「悪ぃ……アイツらを巻くのに躍起になっちまってた。ほら、背負って宿まで連れてってやる。乗れェ」
そう言って目の前で背を差し出された風音は全身で息をしながらも全力で首を左右に振った。
「だ、大丈夫です!私の体力がなかったのが悪いですし……それに……その」
何やらキョロキョロと見回す風音につられて実弥も当たりを見回し……納得がいった。
人の往来が多いのだ。
「……人目なんて言ってる場合じゃねぇだろォ。どうせ二度と会うことねぇ奴らばっかだ……おい、さっさと乗れや」
「う……あ、はい。すみません……よろしくお願いします」
眼力が半端なく、これ以上拒否すれば怒りを誘発させかねないと悟った風音は、自分の体力のなさを恨みながら恥をしのんで実弥の背中に身を委ねた。
街ゆく人々の生暖かい視線をどうにかやり過ごして、ようやく辿り着いた宿屋。
疲れを癒すための場所。
風音を降ろしてやり入口の引き戸に手をかけたのに、実弥の手がピタリと止まった。
何事かと実弥の体で隠れた向こう側を覗き見ると、見たことはあるが初対面の、色とりどりの髪色や瞳の色を持つ、圧倒的な存在感を放っている7人の男女の姿があった。
事前に就任式の様子を自身が持つ能力で見ていたので全員が鬼殺隊の柱だと理解出来たが、それを受け入れられるかは別問題である。
「テメェら……なんで宿の場所知ってんだァ?!見せもんじゃねぇぞォ!」
あっちへ行けと言わんばかりに実弥は視線のみで威嚇するが、そんなものは柱たちには全く効力を発揮しなかった。
柱たちは物珍しそうに実弥を見たあと、穴が空くのではないかと心配になるほど風音を見つめて一斉に騒ぎ出す。
「不死川!君が女子を保護して屋敷に置くなど本当にあるのだな!名前はなんと言うんだ?」
「ダメですよ、煉獄さん。例え不死川さんであっても鬼殺隊の柱なのですから保護くらいしますよ。ところで不死川さんのお話によるとお薬の調合を得意としているとか」
「嬢ちゃん、怖くねぇのかよ?!不死川って基本的に目ェ血走ってんだろ?」
……何と言うか散々な言われようである。
街を出る時は比較的穏やかな表情だった実弥を恐る恐る見遣ると……やはり目を血走らせて、額の血管は頬にまで侵食しピクピクと痙攣していた。