第10章 犠牲と招集
「お前は……認めちまうんだろうなァ。父ちゃんのこと抜きにして、あの妹鬼の頸落とされなかったっつっても……許しちまうんだろうなァ」
やはり動きがあったのだ。
頑なに認めない、認められないと心から叫んでいた実弥にとって、炭治郎と禰豆子に下された処遇は許されざるものだったのだろう。
「何が違うってんだ。あの鬼は強靭な精神力で二年間人を喰ってねェって言われてるが……それじゃあお前の父ちゃんや俺の母ちゃんは弱かったってのか?気に食わねェんだよ」
実弥の言葉は風音の胸に悲しい痛みをもたらした。
僅かに強くなった実弥の腕の力に呼応するように、頭を抱きすくめている力をほんの少し強くして深呼吸を落とす。
「弱かったんじゃないと思うよ。禰豆子さんがそういった鬼になることに対しての耐性があったのかもしれない。私のお父さんや実弥さんのお母さんが鬼にされてしまった時、私たちが側にいれば……自我を保ってくれていたかもしれない」
何もかも憶測でしか話せないが、互いの親の精神力が弱かったなど考えられるはずもない。
鬼殺隊として鬼と戦っていた父親、優しい実弥が慕う実弥の母親の精神力が弱かったなんて、誰がなんと言おうと風音自身が認めないし、そうではなかったと誰に対してでも言える自信しかない。
「弱くなんてなかったよ、絶対に」
小さくもよく響く声は実弥の中にストンとおさまり、ずっと優しい力で頭を抱き寄せてくれていた風音の体を下へとずらし、いつもの場所へ誘った。
「悪ィな。お前の顔見たら気ィ緩んじまったみてぇだ。はァ……にしてもお前のこの格好、金持ちんとこのお嬢さんみてぇだな。この格好でよかったわ」
「この服装だったから実弥さんの気持ちが緩んだってこと?フフッ、それならこのお洋服を着て待ってて良かった。実弥さんはあまり甘えてくれないから……」
「……そうじゃねぇよ。この服だと脱がそうにも脱がせねぇから良かったって言ってんだ。気ィ緩んだくせに気ィ立ってたんでなァ、浴衣だったらひん剥いちまってるとこだった」
…… 風音の体温が一気に上がり硬直してしまった。
実弥の肌に触れることは恥ずかしくないくせに、未だに実弥から直接肌に触れられたことがないので、ひん剥かれるとなるとやはり恥ずかしさは出てくるらしい。