第10章 犠牲と招集
思いもしなかったが何より嬉しい実弥の言葉に自然と顔が綻び、パッと顔を上げると少し頬を赤らめた顔が瞳に映った。
「よかったぁ!こんなに綺麗なお洋服似合ってるのか不安だったから。あ、実弥さん。会議お疲れ様でした。ご飯はもう食べた?食べてなかったら何か食べに行かない?ちょっと待っててね、着替えるから……」
さすがに外に食べに行くのに目立ちすぎる服を脱ごうと釦に手をかけようとして……その手が大きな手で止められた。
「お前なァ……何度言えば分かんだよ。俺の前でも無防備に着替えようとすんな。それに飯は買ってきてっから急いで着替える必要もねェよ」
「そう……?あの、実弥さんが近くにいてくれるのは嬉しいのだけど、すごく近くて恥ずかしいと言いますか……どうせなら抱きしめてほしい」
体温が感じ取れるほどに近くにいる実弥の首元へ腕を回して自分の体をピタリと寄り添わせると、髪を掬っていた手を風音の背に回してふわりと体を抱え上げてくれた。
「これ好き。私も実弥さんみたいに力があれば実弥さんを抱っこ出来るのに。ねぇ、実弥さん。何かあったの?」
無意識に着替えようとしたとはいえ、いつもならもう少し激しめの叱責を受けていたはずなのに今日は静かに窘められただけだ。
しかもその後は何も言葉を発することなく、ただ風音の願いを叶えてくれている。
それはそれで悪くないのだが、やはりいつもと違うと風音としては気になってしまうというものだ。
「……このままだと疲れちゃうでしょ?座るか畳にコロンてしよ?」
「疲れねぇよ。こんな軽い体、重さなんて感じねェ」
と言いつつ実弥は風音を抱き寄せたまま畳へと体を横たわらせ、珍しく風音の胸元に自分の顔を埋めた。
それを拒むはずも疑問を呈すはずもなく、風音は気持ちを落ち着けているであろう実弥の頭を抱き寄せて灰色の髪をゆっくりと撫で続ける。
(禰豆子さんのこと……かな?私が気を失ってる間に何か動きがあったんだよね)
柱合会議が終わり気の緩まった実弥が考えを巡らせることがあるならば、それしか思い当たらない。
鬼である禰豆子とその兄である炭治郎が鬼殺隊に属することを何かの理由により認められたとしても……鬼に対して絶対的な嫌悪感を抱いている実弥にとってそれは許されることではないのだろう。