第10章 犠牲と招集
「好きだのなんだのは言えるくせにこういったことに慣れねェなァ。まァ慣れられっとからかいがいなくなるんで、このままでいてくれた方が俺はありがてぇけど」
「からかいがい……あ、でもね。このお洋服の着替え方が分からなくて……実弥さんにお手伝いしてもらわないと脱げないと思う」
実弥の体がピクリと反応した。
何故こうも人の煩悩を刺激して引っ張りだそうとしてくるのか……
そもそも実弥だって洋服のことはよく分からないし、こんな釦や紐が多くある洋服を見るのすら初めてなのに、どうやって手伝えというのか……
「風音……お前しばらくそのまんまの格好でいろ。食いもん食う時は手拭い前に掛けりゃ食えんだろ。ったく、脱ぎ方くらい店主夫婦に聞いとけよなァ」
「聞いたんだけど手順が多くて……あの、食べられることは食べられるんだけど、なんて言うのかな?腰を細く見せるための硬いサラシみたいなのをギュッ!てしてるから食べにくいと言いますか……腰の線に沿った鎧をお腹に巻き付けてる感じ」
風音にしては分かりやすい説明だった。
その腰の線に沿った鎧というものがどんなものか服の上から確認するために手を風音の腰に回して……実弥の動きが止まった。
「マジかよ、ガッチガチに固められてんじゃねェかァ……苦しくねぇのかよ?」
「今はお腹空いてるから苦しくないよ。でもご飯食べたら大変」
胸元から顔を出した風音の表情はヤケにキリッとしているのだが、全くもってキリッとする場面ではない。
そんなことを自信満々に言われても実弥が困るだけだ。
「お前なァ。……ふっ、ハハッ。そこ自信満々に言うとこじゃねぇだろうが。しょうがねぇから手伝ってやるよ。それ脱いだら飯食いながら竈門らがどうなってんのか教えてやる、ほら、立って後ろ向け」
ポンと背中を叩かれ促されるまま、笑顔の戻った実弥に心の中でホッとして立ち上がり……二人して数十分格闘の後、実弥が買ってきてくれていた夕食をいただいた。
食後のおはぎを食べる頃には竈門兄妹の話をしていても、互いに穏やかな表情でいられるくらいになっていた。