第10章 犠牲と招集
「……結局いただいちゃった。お洋服なんて隊服以外着たこと無かったけど……お人形さんの着てるものみたい」
店主夫婦によく似合っているとたくさん褒めてもらい、なんならお茶までご馳走になってから風音は二人に見送られ、再び街へと放流された。
膝より少し長い深緑のワンピースの裾にはフリルと言われるものが付けられており、風音が動く度に足周りでフワフワと揺れている。
そのワンピースにはレースなるものもで所々飾られているので、風音の言う通りビクトール人形が着用しているドレスに近いものだ。
洋装が浸透しつつあると言えど、ここまで華やかなものを身に纏っている女性はこの街ではそれはそれは珍しく、甘味処へ立ち寄って宿に到着するまで人集りに飲まれそうになったこともしばしばだったとか。
「実弥さんビックリするよね……うーん、やっぱり汚したりする前に脱いで明日返そう。えっと……確かここの釦を外して……あれ?どうだったっけ?」
モゾモゾウゴウゴとしていると、聞きなれた実弥の足音が廊下に響いてきてしまった。
実弥が帰って来る前に浴衣に着替えようと思っていたのだが、部屋の中は既に暗いので思うように事は進まず……慌ててどうにか釦を元に戻したところで部屋の襖が開いた。
「あ……実弥さん。おかえりなさい……えっと風音です」
「いや……今更自己紹介なくてもお前が風音ってことくらい分かるわ。その服……お前が買ったのかァ?」
普段から欲しいものを言わない、買わない風音にしては自分で買ったのならば随分と思い切った買い物なので実弥は驚いただけ。
ただそれだけで聞いたのだが、風音は何を勘違いしたのか涙目で首を左右に振って実弥の質問に否と答えた。
「ち、違うの!これは金魚屋さんの店主ご夫婦が私にって下さって……私が着てる姿を見たら実弥さんも喜んでくれるよって言ってくれたからつい……喜んでほしくって」
なぜ叱られると思っているのか……ワンピースをキュッと握り視線を床に落としてしまった風音に歩み寄り、今は背中にストンと流されている綺麗な髪を掬いとった。
「怒るわけねェだろうが。自分で買ってたとしても怒んねェし……その、あれだ。女の服はよく分からんが……いいと思う」