第10章 犠牲と招集
やはり気を持ち直して元気になり機嫌よく昼餉を完食した風音を連れ、那田蜘蛛山での仔細報告のために産屋敷邸の一室へとやって来た。
事前の実弥からの助言の賜か、風音はたどたどしいながらも柱からの質問に返答していた。
手当てをした剣士の数、その剣士の怪我の具合。
今回の鬼の強さに対しての負傷者の数についてどう思うか。
剣士の中で命令に背いていた者はいなかったか、いたのならばその育手は誰か等々。
ほとんどが風音にとって返答に困る質問ばかりだった。
「無事に終わった……のかな?実弥さんもここまで送ってくれる時に特に怒ってた感じはなかったから大丈夫だと思うけど……さすがに竈門さんのことは聞けなかったな」
そして現在は仔細報告を終え実弥に街まで送ってもらい、以前と同様に解き放たれてアテもなく歩いている。
「どなたもその事に触れなかったしなぁ……聞きにくいけど実弥さんに後で聞いてみよう。よし、じゃあ先におはぎを買って……」
「お嬢ちゃん!ほら、見てみろ!本当に綺麗な金の髪だろ?」
聞き覚えのある人の良さそうな声に振り返ると、これまた人の良さそうな女性に寄り添っている金魚屋の店主がそこにいた。
「お久しぶりです、店主さん!そちらの女性は奥様ですか?」
店主から女性へ視線を動かすと、女性は物腰柔らかくニコリと微笑み頭を下げてくれた。
「初めまして、お嬢さん。この人の妻なんだけど……本当に綺麗なお嬢さんねぇ!まぁまぁ!瞳の色なんて翡翠石みたい!この人ね、お店に見たことのない金色の髪を持つ綺麗なお嬢さんが来たんだって何度も私に話してね、私も金色の髪なんてみたことなかったからしんじてなかったんだけど……本当に綺麗」
「あ、ありがとうございます!店主さん、そんな風に私のことをお話しして下さっていたんですね。あの、お譲りいただいた金魚たちは今も元気です!ヒイちゃん、ラギちゃんってお名前を付けて二人で可愛がってるんです」